「ん…」

気がつくと、私は眠っていた。

「尾所…?」

誰かが何かをつぶやいている。どうにも今の状況が理解できない。私は今どこにいて、今はいつなのか…。

「尾所!」
「あの…?」

私が、誰なのか。

目を開けると、私の目の前に、いや、私が寝ているからはたから見れば上に、誰か分からないが男の人が二人いた。

「尾所、分かるか? ここ、病院。お前が轢かれた時に入院してた」
「えっと…どちら様ですか…?」
「…は?」

男の人は二人とも目を丸くしていた。

「おいおい、悪い冗談はよせって、尾所」
「あの、さっきからおっしゃってる『尾所』って…?」
「…嘘だろ…。おい、咲羅!」

何故か男の人は泣きそうな顔になっている。

「だから言っただろう。お前のことは、何も覚えてないって」
「親父…」

真っ白の服を着た別の男の人が、泣きそうな顔の男の人に言う。

「目が覚めましたか?」

白い服の人が話しかけてくる。

「あなたは今、記憶を失っている状態なんです。これからあなたのことをざっくりと説明いたしますので、よく聞いて下さいね」
「…はい…」

記憶を失っている…? だから自分の名前も分からないのか…?