「…何か、行く気なくなってきたな…」
「ん?」
「ここから音楽室に行ったら、確実に五分は遅れるだろ? それから教室に入るのも…何か気が引けるだろ?」

確かに、今から行っても「遅れました」で済まされる気がしない。やってみなければわからないのだが、何分昨日あんな話をしたばかりで、リスクが大きすぎる。

「…サボっちゃう?」
「どうやって?」
「…帰ってきたら、雪乃を裁けるようにしよう」
「は!?」
「は!?」

二人の声がシンクロする。

「ちょっと、声が大きいって」
「いや、だって普通に考えてみろ。一時間でそんなことできると思ってんのか?」
「準備だってかなり必要になるだろ?」
「でも、他にこの状況から抜け出す方法ってある?」

無音。二、三秒の間、無音だった。

「ね? だから、どうにかして、夢壊しを実行に移すわよ」
「…そう言うからには、ある程度作戦は思いついてるんだろうな?」
「うん。しかも、今回はかなり簡単に行くはず」

私達は、廊下からは丁度見えない、しかも滅多に使われることのない階段の踊り場に来た。

「ここなら、準備出来るでしょ?」
「確かに見えづらいけど…誰も来ないよな?」
「何?」
「何か嫌な予感がするんだよな…」

渡辺の予感は、すぐさま的中することになった。

「尾所~、黒田~、渡辺~、どこだ~?」

音楽の先生の声が、すぐ下の階から聞こえた。