「え~、明日はバレンタインだが、くれぐれもチョコは持ってこないように」

昨日、先生はそう言っていた。なのに…。

「はい、チョコあげる~」
「ありがと~。じゃあ私も~」

本日二月十四日は、チョコの交換祭と化していた。最近はバレンタインと言っても「友チョコ」が多い。男子に渡すつもりはないが、チョコは渡しておきたい。それを実現させた「友チョコ」という制度が、今はスタンダードになっている。

だが、中には…。

「あの…渡辺くんっ」
「ん?」
「これ…受け取ってもらえないかな…?」
「えっ、あっ、うん…」

こちらの君川結那(キミカワ・ユイナ)のように、昔の慣習よろしく男子に渡す女子も少しはいる。

「…ってか、渡辺…?」

聞き耳を立て、結那の言葉を聞く。

「あの、えっと…ちゃんと家に帰ってから、中見てね…?」
「お、おう…」

結那が渡辺の傍を離れたのを確認すると、つかつかと渡辺の方に歩く。

「ちょっと、渡辺」
「ん?」
「何結那にデレデレしてんのよ?」
「別にデレデレなんて…」
「してたって。…まあ、距離が近づいたのはいいことだとは思ってるけど」
「どういう意味だ?」
「結那も、夢壊しの対象にするから」