…そうだ。完全に忘れていた。

夢壊しは、確かに終了した。だけど全世界を見渡せば、まだ上下の格差が山のようにある。私は、私の周りの格差を埋め合わせたにすぎないのだ。

もっと、大きなことをしないと。

「…ちょっと行ってくる」
「えっ、どこに?」
「また後で連絡する!」

私は黒田に連絡を取り、駅前で待ち合わせることにした。

「尾所」

改札の向こうから黒田がやってくる。

「悪い、待たせた」
「別にそこまで待ってないけどね」
「じゃあ…始めるか」
「うん」

駅前のビルの一角に、ネットカフェがある。そこまで利用者は多くはなく、泊まり込みで作業をしても問題ない。これからの計画には、絶好の場所だった。

「じゃあ、お前こっちの部屋な。俺は隣だから」
「うん」

私達が何を始めようとしているのか。それはまだ話す必要はないだろう。

「…頭がパンクしそう…」
「おいおい、そんなんで大丈夫か? 渡辺も呼ぼうか?」
「今多分病院にいると思うんだけど…」
「電話は無理そうだな…。尾所、行って来てくれ」
「え~…」
「その間にお前がやろうとしてる分まで進めるから」
「はいはい…」

壁を挟んで会話する私達は、きっと周りから見れば奇妙だろう。部屋から出る時に誰かに見られていたら、不審者扱いされそうだ。近くに黒田以外の人の気配がないことを確認すると、私は病院に向かうバスに乗った。