夏休みも中盤に差し掛かったある日。
遥隆が図書館から帰ってくると、自宅の隣のアパート前に引っ越し業者の車が停まっていた。
荷物を搬入していく作業員に交じって、金髪で派手な服装の若い女性の姿がある。
きっと、借り主なのだろう。
ついに入居者が来たのか。
そう思った途端、気持ちがズンと重くなった。
額に滲む汗を簡単に拭いながら自宅兼事務所の敷地に入ると、見知らぬ──自分と余り年端の変わらない少年が扉を開けて出てきた。
父か祖父の客には見えないなと思いつつ軽く会釈をして通り過ぎようとしたその時──
「お前、もしかして遥隆か!?」
こちらを指さして、大きな声で名を呼ばれた。
初対面の人間に突然指をさされるのは正直気分が悪い。
暑さとアパートの事とが重なって、遥隆の機嫌は悪くなる一方だ。
「そうですけど……どちら様?」
「七生だよ」
「なお、ちゃん……?」
茹だるような暑さにも負けない、澄んだ榛色の瞳が。
自分は、なお、だと。
目の前の男が。
「ひさしぶりだなー。元気だったか? つかお前背ぇ伸びたな! 俺よりデカいじゃん」
ニコニコと笑うその顔が、昔の面影をどこかに残していて……。
「なお……ちゃん……」
くらくらと、世界が回る。
「おい、遥隆?」
『なおちゃん』は。
──僕の手を引いてニコニコと笑うなおちゃんは
──女の子じゃなかったのか!?


