なおちゃん……

 なおちゃん……


 あの子がどこか遠いところに行ってしまってから、12年の月日が流れた。

 今でも色褪せずに残っている、あの子の笑顔。

 でも。

『なおちゃん』という名前と、手を引かれながら歩いていた時にこちらを振り返った笑顔。

 憶えているのはそれだけ。

 思い出はいつの間にか美化されて、現実なのか夢なのか。

 もうその笑顔に出会うことは無いのだから、と淡い恋心に蓋をしようと思ったのは、桂木遥隆(かつらぎはるたか)が中学を卒業するその日だった。