「なおちゃ……、あ、ごめん。高校生にもなって『ちゃん』呼びなんて嫌だよね」

「……っ、全然っ、嫌なんかじゃねーよ! 直さなくていいから」


 ニコリと笑う七生につられて、遥隆も笑みを浮かべる。

 何だか心が軽くなったような気がしたのは、気のせいなどでは無い筈だ。


「そうだ。お前、今夜ヒマ?」

「今夜?」

「忙しいならいいんだけど、遥隆とゆっくり話したいな、って思って」


 ほんの少し、七生の笑顔が曇った事に、遥隆は気付いてしまった。


「だ、大丈夫だよ! 講習は夕方には終わるし」


 七生にそんな顔をして欲しくなくて、遥隆は思わずそう告げていた。


「ホント!? じゃあ、約束な! 18時半くらいにこられるか?」

「うん。あ、あの、昨日は、ごめん」

「気にするなって。それより、今夜絶対だからな!」


 笑顔で手を降ってくれる七生に見送られて、遥隆は歩き出した。

 不思議と、軽くなった心に比例して足取りまで軽くなる。

 あれほど悩んだ昨夜が嘘のように感じられた。