気が付くと、部屋の中が薄暗い。
慌てて起き上がってから、ここが自分の部屋ではないことを思い出した。
どのくらい眠っていたのだろうか。
よくよく見回してみると、遥隆は携帯一つ持っていない。
荷物は全て自宅に置いてきているようだ。
それにしても。
引っ越しの片付けをしているには随分静かなことに気付く。
他人の部屋を歩き回るのも気が引けるが、そっと部屋から出てみることにした。
白い引き戸を開けると、8畳ほどの広さの部屋に段ボールが山積みになっている。
中途半端に開けられていて、少し荷物が出されていた。
壁には制服──遥隆が通う高校の真新しい学生服が掛けてある。
──なおちゃんも、同じ学校……。
何となく制服の前に立って眺めていると、玄関の扉が開いた。
「あ! お前、寝てろって言っただろ」
「……さっき、起きたんだよ」
「ふぅん。身体、もう大丈夫なのか?」
「おかげさまで、結構スッキリしたかな」
「そっか。じゃあ良かった」
そこでまた、七生はニッコリと笑う。
その笑顔に、遥隆の心がくすぐったくなる。
けれど、遥隆は目の前に現れた『なおちゃん』が男だったことへの戸惑いが拭いきれず、七生への態度がどうしてもぎこちなくなってしまう。
本当に彼が『なおちゃん』なのか。
彼自身が遥隆のことを知っていて、自分は七生だ、と言うのだから疑っても仕方ないのは分かっている。
自分の勝手な勘違いで彼の優しさに向き合えないのは失礼だと頭では分かっているが、心が着いていけない。
どう会話を続けたら良いのか分からず、つい黙ってしまっていると七生の方から遥隆に話し掛けてきてくれた。


