夏休みに入り特にすることもなく部屋で宿題をしようと鞄を漁ると図書室に返し忘れた本が入っていた
まだ長期休みに入ってすぐだったため、学校には職員がいることがわかっていたので翌日に学校へ向かった
「そういえば、もう咲く時期かな」
雲行きの怪しい空を見ながら学校に向かう途中、草太と植えたバーベナを思い出した
図書室を開けてもらおうと職員室に向かうと教員達が慌ただしくしているのが目に入った
「失礼します。あの、図書室に行きたいんですけど…何かあったんですか?」
「天野君!」
一人の女性教員が晴人を見つけると苦しそうな顔をした
「天野君…林先生がっ…」
「先生に…何かあったんですか…?」
今朝、突然心筋梗塞で倒れられて病院にっ…その言葉を聞いて晴人は持っていた鞄を床に落とした
「…場所は…」
「え?」
「先生は今どこですか!?」
「え、あ、駅の近くの大学病院に搬送されてっ…あ、天野君!待ちなさい!!」
晴人は女性教員から場所を聞くとそのまま職員室を出て走り出した
「はぁっはぁっはぁっ…」
ーー嘘だろ!?先生!!
ハルトは中庭を通り越し走って門を出る
ーー俺を一人にしないでくれよ
ーー俺、まだ先生に伝えてないことがあるんだ
草太と一緒に植えたバーベナが紫色の花を咲かせていた
そこに一滴の水が落ちる
晴人はガードレールを飛び越え無我夢中で走った
いつの間にか雲が太陽を覆い隠し雨が降り出す
ーー先生俺に言ったよな、どういう人間になりたいかって
ーー俺、先生みたいな教師になりたい
ーー先生が俺に寄り添ってくれたように、俺も誰かの支えになれる人間になりたい
「あ、すいません…」
「すいません!!」
走っている最中、誰かと肩がぶつかってしまったが振り返らず晴人はそのまま病院を目指す
「譲二君大丈夫かい!?」
「あ、はい。」
「ったく、ほんっとに最近の若い子はろくに謝りもしないなんて!」
「………」
ぶつかった青年は乱れた髪をかきあげ、隣で怒るマネージャーを他所に走っていく自分と同じ歳くらいの彼の背中を見送った
「はぁっはぁっはぁっ、くっ…」
ーーあと、そうだな…
ーー温かい家庭を作りたい
ーー家に帰ると灯りがついてて、あったかいご飯が用意されてて「ただいま」っていうと「おかえり」って返ってくるような
ーーまだ全然想像できないけど、先生が奥さんを愛したように俺も心から愛せる人を見つけたい
「…っはぁはぁ…」
晴人は病院へ向かうバス停に着き時刻表を見る
「あ、あのっ、今何時ですか!?」
「え?えーっと、9時16分です」
「っ、ありがとうございます!」
バス停で待つ少女に声をかけ次のバスが来るまでの時間を見たが、待ちきれなくそのまま走って病院に向かった
「百合?何かあった?」
「あ、ううん、時間を聞かれただけ…」
「そう。ほら、今日の発表会の譜面に目を通してなさい」
「うん」
少女は鞄から束になった紙を出し母親に言われた通り譜面に目を通し始める
あたりは季節外れの雨粒達がコンクリートを濡らしていた
ーー先生、俺先生に出会えて変われたんだ
ーー今まで生意気言ってごめんとか
ーーこんな俺を気にかけてくれてありがとうとか
「っわ…!」
晴人は濡れた地面に足を取られコンクリートの上に倒れ込んだ
「いっ…て…っ」
ーーまだ何も伝えてないのにっ…
晴人は目の前にある汚れた自分の手を見て悔しそうに拳を強く握った
パッパーーー
その時大きなクラクションを鳴らした大型トラックが向かってくるのが見えた
ーー先生、俺、先生に会えて幸せだったよ…
ドンッッと生々しい音が交差点に響き渡る
「キャーーー!」
「誰か!!救急車!!!」



