「もうすぐ夏休みだねー。茉莉花ちゃんは何か予定とかあるの?」

百合の言葉にぼんやりしていた茉莉花はハッとする

『特には…。いつも長期休暇はバイトか家にいることが多いかな』


えー!もったいない!と驚く百合に笑いかける


夏休みに入ったら父の一周忌だ

今年の夏はきっといつもより寂しく思う日が多くなるだろう、と視線を下げた


「じゃあさ、一緒にプール行こうよ!」

『え?』

前を見ると百合がニコニコして頬杖をついている


「だって、高校最後の夏休みだよ?楽しまないと損じゃない!」


「いいね」

その声を聞いて登校してきた譲二も茉莉花の隣の席に腰を下ろす


「僕も行きたいな」

『譲二、仕事は?』

「僕、卒業したら本格的にモデルの仕事始めようと思うんだ。だから今年、学生最後の夏休みは仕事をセーブして楽しもうかなって」


譲二の言葉にクラスメイトが茉莉花達の側に集まりだす


「おいー!譲二、林さんばっかじゃなくて俺たちとも遊べよな!」

「プールいいなー!私も行きたい!」

「私も!」

「じゃあみんなで楽しい思い出作ろう!」

私、しおり作るー!とみんな口々に盛り上がり茉莉花は呆然としていた


ーーそうか、もう一人じゃないんだ


今まで夏休みを楽しみにしたことなんてなかった

だけど、今は違う


百合や譲二、クラスのみんなが側で笑ってる


そんな些細なことが茉莉花の寂しかった気持ちを跳ね除けてくれた


外を眺めていたハルトが遠くでこちらを見て笑ってるのを見て、いつもなら嬉しいはずなのに先日の一件でうまく笑えなかった


朝の光が射すハルトになんだかそのまま消えてしまいそうで


ーーハルト、何を隠してるの?

ーー私じゃ、ハルトの支えになれないのかな?


きっとハルトにそう言ってもはぐらかされて困らせてしまうだけだとわかっていたので何も聞かなかった

きっとハルトは話してくれる

いつかきっと、彼の言葉で。

今はそう信じて過ごすことしか出来なかった



そんな茉莉花の気持ちを他所に、ハルトは日に日に強くなる頭痛に悩まされていた

気付かれないように、茉莉花には心配させないように、前よりも少し離れて見守ることしかできなかった