「あ、茉莉花ちゃんおはよう!」
『おはよう、これは一体…』
整列している自分のクラスに入り、茉莉花は百合に声をかけた
「それがねー、すごいんだよ!この間、美術の時間に描いた桜庭くんの絵がコンクールで入賞したんだって!」
そう言えばいつかの美術の時間、美術担当の先生が絶賛していたのを思い出し勝手にコンクールに応募したんだなと思った
舞台を見ると譲二が描いた絵が置いてある
「桜庭君、おめでとう」
「あ、はい…」
あまり状況を理解していない譲二は校長から手渡された表彰状を受け取る
「さぁさ!この素晴らしい絵の説明とどういう気持ちで描いたかを皆さんに伝えてくださいな!」
嬉しそうな美術担当の先生は未だ謎に包まれた絵の解説を待ち遠しくしていた
おもむろにマイクが渡され譲二は目線を泳がせている
《あー、えっと…この絵は…。》
たくさんの視線に緊張と困惑で声が震えていた
《混在した色は、その…人の感情や想いを描きました。いろんな色があるのは、そういう意味で…えっと、色素の薄いものは簡単に濃い色に支配されてしまう…。でも、飲み込まれてもまた別の形として新しいものが生まれる》
先生達はほぅ…と感心し、生徒達も譲二の話してる姿に惚れ惚れとしていた
《そうして、人の考えや時代は移り変わって…》
そこまで言うと譲二は黙り込んでしまい辺りが沈黙した
「…桜庭君?」
隣にいた校長が声をかける
《僕は…同性愛者です》
『!』
ザワッ
譲二の一言に生徒達が騒ぎ始めた
「桜庭君?なにを…」
《ここにいる人の中で、僕のことを気持ち悪いと否定的な人や、笑いの種にする方もいるでしょう。でもそれは、異性愛が普通だと思っているからです》
生徒や先生達も黙って譲二を見る
《僕を理解して欲しいとまでは言いません。でも、僕みたいな人間がいることを知って欲しい。誰にだって、悩みや不安もあるだろうし眠れない夜もあると思う》
ハルトも譲二の話を真剣に聞いていた
《けど、どこかに分かってくれる人はいるから。恐れずに一歩踏み出してほしい。その一歩がなかなか踏み出せないというなら…》
譲二は生徒達の中に紛れた茉莉花を見る
《まずは僕がその一人になります。だから、付いてきてください。》
以上です、とマイクを校長に渡し舞台を降りようと階段に向かう
生徒達は呆気にとられ、譲二を見ていることしかできなかった
そこに茉莉花にだけ拍手の音が聞こえる
それはハルトのものだった。
茉莉花も譲二に向かって拍手をするとそれに続いて手を叩く数が増え、体育館が拍手に包まれた
譲二は舞台から眺めた後、涙を堪えながら階段を降りた
自分のクラスに戻ろうとすると、以前昼休みに譲二を茶化していたクラスメイトが立っていた
譲二は一瞬たじろいだが、クラスメイトは勢いよく頭を下げる
「桜庭!ごめん!俺、桜庭の気持ち考えないで傷つけた!」
ごめん、と続いて他の男子も頭を下げる
「………」
譲二は何も言わず右手を差し出した
クラスメイトは勢いよく顔を上げると微笑んでいる譲二に向かって自身の右手を出した
「これから、よろしくね」
その言葉にクラスメイトは固く握手を交わした
「お前、喋るとめっちゃ普通じゃん!」
「ていうか、付いてこいとかカッコよすぎるんだけど!」
「俺も!鳥肌たったわ!」
「はははっ」
譲二達は肩を組み笑い合った
転校して初めてみんなの前で笑顔を見せた譲二にまた拍手が巻き起こった