「そして僕はこの街に来た」
『そう…だったんだ』
茉莉花はそれ以上何も言えなかった
「…引いた?」
譲二のその問いに大きく首を横に振った
それを見て譲二が微笑む
『話してくれてありがとう。でも、譲二の気持ちを考えると私なんかが何か言える立場じゃない…』
茉莉花は目線を下げる
「僕は逃げたんだ。学校からも親からも殴った相手からも、自分の…気持ちでさえも…」
『逃げた?』
果たしてそうなのだろうか。
あのまま、本当の自分を隠して後ろ指をさされながら生きていくのが彼にとって幸せなのか?
いつの間にか辺りは暗くなり、空には星が瞬いていた
茉莉花は家に帰り、パスタにご飯をあげる
「…あいつ、辛かっただろうな」
ハルトがベランダから外を見て呟いた
『自分は"逃げた"って言ってた。きっとそう思ってる気持ちでさえも彼を縛りつけてるんだろうね…』
茉莉花はご飯を食べ終わったパスタを抱きしめる
「逃げちゃダメなのかな?」
『え?』
茉莉花はベランダにいるハルトを見る
「そりゃ、いろんな壁があって乗り越えなくちゃいけないことなんて山程あるけどさ、アイツの話しはそういう事じゃないじゃん?自分を否定される事ほど辛いことはない」
『………』
「そんな辛い思いまでして、その場所に留まる意味はないと思う」
そうだ、きっとそれは"逃げた"のではない
『自分を守ってあげたんだね』
そういうこと、と言うようにハルトは茉莉花に微笑んだ
そうだ、自分に出来ることは何もないわけじゃない
伝えないと、伝えることで彼が前を向けるなら…
それから譲二はモデルの仕事が少し忙しくなり、話す機会が少なくなってしまった
そんなある日…
久しぶりに登校して来た譲二に声をかけた
『おはよう!』
「おはよう、茉莉花。久しぶりだね」
『あ、えっと、今少し時間いいかな?』
〜♩
その時、タイミング悪く放送の音楽が流れた
《全校生徒のみなさん、おはようございます。本日は急遽、全校朝礼になりましたので体育館に集合してください。》
「…ちょっと、抜けようか」
『え?』
譲二と茉莉花はそのまま中庭へと向かった



