「桜庭、事情を説明しなさい。」
生徒指導室に呼ばれた譲二と殴ってしまった彼は黙ったままだった
担任のため息が響く
「先程、お家に電話したらお父様が来てくれるそうだ」
その言葉に譲二は顔をあげた
ガラッと扉を開ける音が聞こえ、音のする方を見ると譲二のお父さんが息を切らしてやってきた
「先生、この度は…」
「お父さん、まずはどうぞ譲二君の隣に座ってください」
担任に頭を下げる父親に胸が痛んだ
隣に座る父の顔が見れないまま、譲二は下を向く
「事情を聞こうとしたんですが、二人とも口を噤んだままでして…」
譲二の父はこちらを向く
「譲二、何があったか話しなさい」
「………」
言えるわけがない。ましてや自分のセクシャリティーな部分を曝け出すなんて今の譲二には酷だった
「モデルとかやって、調子に乗ってるんじやないですかー?」
「こらっ、お前は!」
彼の声に担任が制しする
「…怪我をさせてしまったことは本当に申し訳ない。譲二、そこは事実だ。頭を下げなさい」
ーーなんで、僕が…
そんな考えが頭をかけたが、事態の収拾をつけるにはそれしかないと小さな声でごめんなさい、と呟いた
「謝る気あるの?」
「おい、いい加減にしろ!」
譲二は何も言わず無言で彼を睨んだ
「譲二が君を殴ってしまったのは本当に申し訳ないと思っている」
「………」
けれど、と父は言葉を続けた
「仕事を始めたからと言って、譲二は勉強も仕事も手を抜いたことは一度もない。それに、何も理由がないまま人を殴ったりするような子に私は育ててはいません。私は私の息子として、彼を信じています。」
譲二は父の言葉に涙が溢れそうになるのを堪え、クラスメイトはバツの悪そうな顔でそっぽを向いた
"一週間の停学処分"
それが譲二に科せられた処分だった
「父さん…」
門を出てからの帰り道、先を行く父親に声をかけた
「…なんだ」
「ごめん…なさい…」
消え入りそうな声で呟くと、父親はゆっくり振り返った
「帰ったら、母さんに美味しいものを作ろう。母さんもお前を心配している」
柔らかい笑顔でそう言われると譲二は堪えていた涙を流した
それから一週間、仕事を休み家で過ごした
停学になって7日目、晩御飯の最中に譲二は両親に転校させてほしいと申し出た
母親はうろたえたが父親は冷静だった
「どうしてだ?」
「あそこには、戻りたくない。でも高校は卒業するべきだと分かってる。今以上に勉強も頑張るし、仕事も続けさせてほしい。わがままだって分かってるけど…」
「戻りたくない理由は?」
それは…、と言いかけた後口を噤んだ
「ごめんなさい、理由はまだ、言いたくない…」
父親と母親は目を合わせた
「…分かった。だけど、私も母さんもお前のことを理解しようとしている。話せる時が来たら必ず私達にちゃんと伝えること。わかったな?」
はい、と短く返事をした。
母は何も言わず微笑んで譲二を見ていた。



