「それから僕は中学の同級生がいない高校に入学した。誰も僕のことを知らない、新しい自分でいたかったんだ。」
高校に入学してすぐ、一人で買い物をしているところを今のモデル事務所にスカウトされた
友達を作るのが得意じゃない僕は、同級生と関わりを持つのが苦手だったし学校以外での繋がりが出来れば自然と一人でいることが当たり前になるんじゃないかと思った
思いの外、仕事は増え学校と話し合った結果、仕事と学校を両立させることになった
仕事は嫌いでは無かったし、いろんな人と出会って僕の世界は広がった
なにより、カメラの前にいる自分はいつもなりたい自分へと簡単に導いてくれた
狭く、居心地の悪い小さな僕ではなく、キラキラした自分に。
学校ではそれをよく思わない人もいたけど、そんなことどうでもよかった
「あの日までは…」
『”あの日”?』
譲二は強く拳を握った
高校2年の冬、仕事帰りにふと家の近くの公園に行った
缶コーヒーを持って両手を温めながらベンチに座る
そこは樹への気持ちに気付き涙を流した場所だった
夜の静寂に包まれ、冷たい風が辺りを沈黙へと導く
何をするわけでもなく、ベンチに深く座りぼーっと付近の家の灯りを見ていた
あれから2年。ただただ周りが騒がしく進んでいくだけで、心はずっとここで止まったままだった
視線を落とし、ため息をついた
「…譲二?」
聞こえるはずのない懐かしい声に振り向くとそこには樹がいた
「い…つき…」
「…久しぶりだな」
そんな、まさか…、頭が混乱してそれ以上声を発することが出来なかった
隣いいか?と譲二が返事をする間もなく、樹はベンチに腰掛ける
沈黙が怖い、何か話さなければ、だけど何を、今更どんな顔をして…
「お前、モデルとかやってるみてーじゃん」
「え、あ、うん…」
突然の樹の言葉にうろたえて答える
「昔は俺の後ろばーっか付いて回ってたのによー。いつの間にか有名人になりやがって!」
樹の手が伸び、譲二の頭をくしゃくしゃ搔きまわす
「や、やめてよ!」
頬に熱が集まる感覚がした
「あーあ、俺も部活ばっかじゃなくってもっと外でてたら今頃スカウトされてテレビとか出てたろーになー!」
「…樹は芸人さん向けじゃない?」
「なんだとー!譲二のくせに!」
「はははっ」
自然と笑みが零れ、樹を見ると目尻を下げて譲二を見ていた
「な、なに?」
「いやー?久々にお前の笑った顔見たなって」
雑誌とかでは見るけどな!と、自分が写っている雑誌を見てくれたことにドキリと胸が震えた
「お前は一人で抱え込んで自己解決しようとするからな。人が傷つくより自分を傷つける方が楽だって思って、何も言わずにボロボロになっちまう」
「………」
「でもな、譲二。俺はお前が、お前自身を傷つけてるのは見てられねぇ。俺ら小さい頃から一緒だったじゃねぇか。今まで過ごした時間まで無しになんてするなよ」
樹は悲しそうに儚げに笑う
「うん…」
樹はいつもそうだ。
何も言わない自分に優しく手を伸ばし、光を与えてくれる
眩しくて、あの日、初めて言葉を交わした日の太陽のように温かく
「…じゃあ、そろそろ行くわ」
樹は立ち上がり、またなと後ろ手で手を振る。
その後ろ姿はいつかの小さくなっていく背中と同じだった
その時、ふと中学の卒業式に出会った彼女の言葉が頭を過る
ーー”後悔したくないじゃない”
「樹!!」
ベンチから立ち上がって樹の背中に声をかけると樹が振り返った
「僕、ずっと…っ」
涙が溢れる
「ずっと、樹のことが好きだったっ…」
「譲二…」
「好き…だったんだ…」
樹が驚いた顔で譲二を見ている
譲二は溢れそうになる涙をなんとか堪えようと下を向いた



