キミが教えてくれたこと



中学3年の秋だった

「あーあ、部活も引退したし後は受験のみかー」

放課後、いつものように下校していると天を仰ぎ樹が言った

3年になってキャプテンになった樹は青春を全て野球に注いだ

最後の試合、強豪校に負けてしまったチームは歯をくいしばり涙を堪えて挨拶をした

キャプテンとしてチームのみんなに一言ずつ伝え気丈に振る舞った樹だが、試合を見に来ていた譲二の前で堪えきれず涙を流した

そんな樹の表情を見て譲二は胸が苦しくなったが、同時に自分にしか見せない顔を見て嬉しくも感じた


そんな彼との出来事を思い返していると樹は譲二を覗き込むように見ていた

「譲二は彼女とか作んねーの?」


今までいろんな人に聞かれた言葉だが、樹にその手の話を振られたのは初めてだ


「…え、ああ、そういうの興味ないし」

なんとなく、嫌な感情が渦巻く


「誰にも言うなよ?」


樹は声をひそめて譲二の肩を組んだ


「…実はマネージャーに告られてさ」


ドクンっ


心臓の音が脳まで直接伝わる


「へ、へぇー、そうなんだ」

今の自分は自然体だろうか…目の前が揺れる


「ずっとチームを支えてくれてたヤツだし、いいヤツだなーって俺も思ってたし」

顔を赤らめて鼻をこする

喉の奥がヒュッと鳴り言葉が出ない


「そう…なんだ」

組まれた腕をすり抜け少し先を歩く


「ごめん、用事思い出した。先帰ってて」


「え?ああ、」


樹の返事も待たず走った


「…っはぁっはぁっ」

秋の風は冷たく、風の音が耳を掠めている

近くの公園に行きフェンスに肩を預けて息を整えた


「…はあっ」


ーー嫌だ


ーー嫌だっ


後ろ手でフェンスを殴る

大きな音が静寂を壊す


譲二は自分の胸元をギュッと握った


この感情は何か分かっている。ずっと見て見ぬふりをして認めようとしなかった

でももう自分で自分を騙せない


樹が


「…っ好きだ…」


一人暗い公園で譲二は涙を流した


自分はおかしくなってしまったのか、この感情は持ってはいけないものだ。でも隠し通せない


混濁した気持ちが頭からつま先まで駆け巡る

気持ち悪い


頭を抱えて譲二は誰もいない公園で声を押し殺して泣いた