『え?』
「え、」
茉莉花もハルトも譲二を見つめたままだった
「僕が、転校して来た理由を話すよ」
譲二は茉莉花の肩から手を放すとぎゅっと握りこぶしを作った
僕は小学6年生までデンマークで育った
中学に上がる頃、父の故郷である日本にやって来たんだ
「桜庭譲二くんです。日本のことはあまりわからないみたいだから、みんな教えてあげるように!」
初めての日本、初めての環境、初めての学校。どれもこれも新鮮で、同時に不安も感じていた
みんな物珍しそうに僕を見ていたけど、遠目で見ているだけで話したりすることはなかった
学校に行くのが嫌で嫌で仕方なかった
でも、両親に心配をかけたくなくてなんとか登校するのが精一杯だった
「やだな。デンマークに帰りたいな…」
どこもコンクリート色の世界
冷たく、なかなか心を開くことが出来なかった
「おい!」
学校の花壇の前にしゃがんでいると突然声をかけられ、振り向いた
そこには鼻の頭に絆創膏を貼った坊主頭のクラスメイトが立っていた
「お前、ここでなにしてんだ?」
彼は譲二を見下ろす形で仁王立ちしている
「……っ」
何も言えず俯向くと、あ、こいつ日本人じゃないのかという声が聞こえた
「な、ナイスチュミーチュー…?」
「……」
「…英語じゃ通じないのか?へ、へろー?」
「…僕、日本語話せるよ」
僕の言葉を聞くと、驚いた後早く言えよ!と怒鳴られて肩を竦めた
「お前、ハーフとかいうやつだろ?」
彼は僕の横に胡座をかくように座った
「俺と一緒!俺は関西と関東のハーフだ!」
きょとんとしながら、ハーフの意味がわかっているのかわかっていないのか彼の得意げな笑顔にくすりと笑ってしまった
「俺は鷹宮樹(たかみや いつき)!樹でいいぞ!」
「僕は、桜庭譲二」
「何でクラスの奴らと仲良くしないんだ?」
その質問に目線を花壇に戻した
「…みんな、僕の事ジロジロ見てくる。何かあるなら直接言えばいいのに、コソコソ陰で何か言ってる」
譲二は目の前に綺麗に咲いているポピーの花を撫でた
すると樹は溜息をついた
「みんな、お前が日本語話せないと思ってんだよ。話してみたいけど、どうしたらいいかわかんなかっただけだ」
そう言った後、樹は譲二の腕を掴んで引き上げた
「行くぞ!」
「え?どこに?」
「教室!みんなに話せるとこ見せるぞ!」
「え、でもっ…僕…」
「大丈夫!」
樹は振り返って譲二を見た
「俺がついてるから安心しろ!」
樹の笑顔の奥にある太陽が譲二を照らして目を細めた
ポピーの花が風で揺れる
腕を引っ張られたまま二人は教室に向かった
「みんなー!こいつ日本語喋れたぞー!」
樹はクラスの扉を勢いよく開けると大声でそう叫んだ
樹の叫びを聞き、みんな柔らかい表情になると譲二のそばに集まる
「ねぇねぇ、デンマークってどんなところ?」
「ハーフってほんとなんだね!」
「日本語以外でも喋れる言葉はある?」
譲二はみんなに囲まれながら樹を見た
樹は教卓の上に座っており、譲二の視線に気付くとニカッと歯を出して笑った



