「はい、オレンジジュース」
『ありがとう』
茉莉花は渡されたカップを両手で受け取り口にした
微炭酸で疲れた体に染み渡る
「付き合わせてごめんね?でも、茉莉花のおかげで楽しかったよ」
ベンチに深く座り、譲二はニコリと笑いかけた後、目の前の行き交う人達を見た
「たまに、こうしてベンチに座って目の前の人達を見てるんだ。忙しそうな人、喧嘩してるカップル、杖をついたおじいさん、小さい子供を連れた家族」
夕暮れ時、昼間の騒がしさが落ち着き静けさが周りを覆う
「みんな、きっといろんな事があって、いろんな事に悩んで生きているのかなって」
茉莉花は譲二の横顔を見た後、譲二の視線を追うように行き交う人に目を向けた
『何も無い人なんていない。見えないだけで多かれ少なかれ、みんな何かを抱えてるんだよ』
「…そうだね」
譲二は持っていたコーヒーカップに口をつける
「茉莉花は…強いね」
『え?』
風が吹き、茉莉花は耳元で髪を抑える
「茉莉花もきっといろんなことがあって、それでもしっかりと歩いてて。どんな人にも優しく、芯の通った人だ」
なのに僕は…と言って口を噤んだ
『…強くなんてないよ』
風が止み、耳に髪をかける
『強くなんてない。みんなそうだよ。だから支えてくれる人が必要なんだよ』
譲二はその言葉を聞いてぎゅっと手に力を入れた
『人は脆くて弱い生き物だから、支えて合って生きていくの。自分には関係ないと思っている人達も、きっとどこかで繋がってる』
茉莉花は視界の端にいるハルトに目を向ける
『その人が、その人達がいるから、強くいられるだけよ』
ハルトは茉莉花に微笑みかけた
「…やっぱり、茉莉花はすごいや」
譲二はベンチから立ち上がる
「今日は本当にありがとう、茉莉花と過ごせてよかった」
茉莉花もベンチから立ち上がり譲二の前に立ち、微笑みかける
バシャンッと持っていたジュースが地面に落ち、その後カラカラと風に吹かれてカップが転がる
『じょう…じ…』
突然のことで声も出なかった
譲二は茉莉花の手を引くと自分の胸に引き寄せ抱きしめた
「てめっ…!何してんだ!」
ハルトが怒っているのが譲二の肩越しに見える
「茉莉花に、伝えたいことがあるんだ」
ゆっくりと茉莉花の両肩に手を添え、目を合わせる
「僕は、
同性愛者だ」
譲二の放った一言を聞いて、一瞬時間が止まったようだった



