キミが教えてくれたこと



店長と奥さんに急かされ、私服に着替えた後お店を出ると譲二が壁に寄りかかって待っているのが見えた


サングラスをかけ、クリーム色のスヌードにチャコールグレーのニット。下は黒のサルエルパンツで黒いブーツというシンプルな服装だが、色白で長身の彼にはそれだけで存在感を放ってしまうみたいだ

現に今も壁に寄りかかっている彼に目を奪われている人がチラホラいる


『…お待たせ』

「茉莉花!お疲れ様!」


茉莉花が現れると目を奪われていた人達が怪訝そうな顔をするのが見えた


ーーどうせちんちくりんですよ!


日本女子平均身長の茉莉花は譲二と並ぶとかなりの差がある

それにこの美しい顔をした彼の横にいると自分の平凡さが浮き彫りになり少し、いや、かなり落ち込み気味になってしまうのだ


「引っ越してきたばかりでこの街のこと何にも知らないんだ。茉莉花教えてよ!」

『この間クラスの女子が案内するって言ってたじゃない。彼女達に頼めばいいのに』


「言ったでしょ?僕は茉莉花がいいんだよ」

ハルトが至近距離で鬼の様な形相をし譲二を睨みつけている

『…夕方までだからね』

「やった!」


譲二は笑顔になると茉莉花の手を握った


『ちょっと!』

「はぐれないように、ね」

譲二はニヒルな笑顔を見せ茉莉花の手を引いて歩き出した


「アイツ、マジ呪ってやる!!!」

ハルトも遅れて二人を追いかける


「茉莉花!ここ入ってみよう!」

そう言って入ったのはインポートブランドのショップだった

『案内っていうか、付き合わされてるだけのような…』

「茉莉花!どっちの色が似合うかな?」

譲二が持って来たのは黒色とモスグリーンのビッグフードのロングパーカーだった


生地はラッセル編みになっており、裾はアシンメトリーにカットされフリンジがついている

ジップもライダースのように斜めについておりあまりにもおしゃれすぎて目が点だった


『こ、こっち?』

「グリーンね!ちょっと着てみようっと!」

譲二はスヌードを取るとパーカーを羽織った

鏡を見て、スヌードを取る時に乱れた髪をかき上げて全体を見る

さすがモデル。何を着ても決まっている

「うん、いいね!これにするよ」


『え、いいの!?』


余りにも即決で驚いた

「うん、茉莉花が選んでくれたし気に入った!」

素人目線の判断でいいのだろうか、と思いながらレジで会計をする譲二を見送った

そっと選ばれなかった黒色のパーカーの値札がチラリと見え、普段自分が買う服の値段とあまりにも桁の違いがあり卒倒しそうになった

「さ、次はあそこに行こう!」


譲二はめぼしい店を見つけては次々と店内に入っていく

もはや私はいらなかったのでは?と思いながらも譲二について行くことしかできなかった

ハルトはそんな二人を見ていることしかできず、軽く胸を押さえた


「茉莉花、ここで待ってて!」

服屋、雑貨屋、眼鏡屋…いろんなところを目まぐるしく回りお疲れモードの茉莉花を見て譲二はベンチに座るように促すとどこかへ行ってしまった


『私は何をしているのかしら…』

ただ付いて行くことしかしていない自分の存在意義がわからなくなってきてしまった


「もし…」

ずっと二人の後ろを付いて行くしかしていなかったハルトが、茉莉花と二人きりになった途端口を開いた


「もし、これから先このままの状態だったら。俺はこうして見てるだけなのか…」

茉莉花が他の誰かを好きになり、その相手と過ごす時間が多くなるとハルトは嫌でもその空間にいなければならない

耐え難い現実にらしくないため息を零してしまった


『ハルト?』

ハルトの呟きは茉莉花には聞こえず、聞き返そうとしたがお待たせ!と譲二が来てしまった