キミが教えてくれたこと



渡り廊下を歩いて教室に向かっていると、みんなチラチラと茉莉花を見て耳打ちをしているのが見える

きっと、あの桜庭譲二とキスをした女子だと噂されているのだろう

だがあの時、身長差でみんなには見えなかったが口にされたわけではなくハルトに伝えた通り、頬に少し唇が当たるくらいで茉莉花にとっては犬に甘噛みされたくらいにしか思わなかった

そんな状況を一人一人に説明出来るはずがなく、噂が噂を呼び尾を引いてきっといろんな話が飛び交っているのだろう

茉莉花は少し不安になりハルトを見ようとしたが、先程言い合ってしまったからどんな顔をして見ればいいかわからず下を向いて教室に向かうのが精一杯だった

教室のドアを開けると茉莉花を探していた譲二と百合が戻って来ており、譲二は自分の席に百合はクラスメイトと話ていた

二人共茉莉花に気付くと嬉しそうに笑顔を作り、譲二はすぐさま茉莉花に駆け寄る

「茉莉花、探したんだよ!わからないところがあるから教えて欲しいんだ」


手を引かれて席に誘導されている最中、ハルトが不機嫌そうに目を細めているのが横目で見えた

「ここなんだけどね…」

席に座るとさっそく教科書を開き、茉莉花に見せる


『桜庭君』

「譲二でいいよ。なに?茉莉花」

譲二はニコニコと茉莉花を見る

『…譲二。誰とも関わりを持たなかったあなたが何故私に話掛けて来てくれるようになったかは分からないけど、クラスのみんなあなたと仲良くなりたいと思ってるの。みんないい子だし、私以外とも話してみるべきだと思う』


譲二はシュンとなり、まるで飼い主に叱られた大型犬のようだ


「…茉莉花は他の人と違う。茉莉花は僕にとってヒーローだ」

なんだかどこかで聞いたようなセリフだ

「茉莉花は誰も区別しない。誰よりも優しい。…あの日、中庭で話してくれた時から僕はちゃんと茉莉花を見てるよ。僕の居場所は茉莉花の隣だよ」


吸い込まれそうな綺麗な瞳。

やっと見つけた居場所が自分の隣だと言われると、無下に出来ない

でもクラスのみんなはいい子ばかりなのでみんなのことも見てあげてほしい

それにハルトに勘違いされるのが切なく、苦しい。でも素直になれないし、気持ちを告げたところで茉莉花とハルトの関係がこれから先続くと保証もなければ、ハルトが自分のことをどう思っているかも自信が無い。

どうすればいいのか、と茉莉花は目を伏せた

そんな茉莉花を見て譲二も眉を寄せた


「ごめん、そんな顔させたいわけじゃないんだ。茉莉花は…僕が側にいると迷惑?」

『別に、そういうわけじゃないけど…』


「ほんと!?」

苦しそうな表情で投げかけられた質問にそう答えると、先程の表情とは一変しひと懐っこい笑顔で切り返されたのを見て騙された、と思った


後ろからはハルトのため息が聞こえた