「ねぇねぇ、ジョージ君て今どこに住んでるの?」

「よかったらあたし達この辺り案内するよ!」


声のする方を見るとクラスの女子が群がってヘッドフォンで曲を聴き本を読んでいる譲二の席を囲んでいた

教室のドア付近には他クラスの子達も彼を遠巻きに見ていてなんだか学校中が落ち着かない様子だ


ガタっと音を立てて椅子から立ち、彼はそのまま教室を出て行ってしまった

「あらら、シャイなのかな?」

百合と茉莉花は彼の後姿を見送った

『まぁ転校してそうそう、これだけ人に囲まれたら離れたくなるんじゃないかしら』

手元の雑誌の彼はニヒルな笑みでカメラを見つめている

「笑うと可愛いのにー」

もったいない、と言って茉莉花達は雑誌を閉じた

それからというもの、隣の席の転あったからか校生は一言も発することはおろか、誰とも関わることも無く1日を終えてしまった


「なんだー?あいつ日本語話せねぇのか?」

終礼を終えて足早に教室を出て行く譲二を見ながらハルトが言った

『そういうわけじゃないと思うけど…。授業もちゃんと理解してるみたいだし』

授業中、先生の話していることをノートに書き出しているのを思い出した

『なんだか、人を寄せ付けないオーラ出してるよね』

みんな優しくて良い子なのに…と言って彼の席を通り過ぎる時、横目で彼の座っていた椅子を見た

「………」


『…なによ』

教室を出て人気が無くなってから茉莉花はずっと無言で見つめてくるハルトに問いかける


「いやー…」

言葉を濁し、ふっと笑う彼を茉莉花は目を細めて睨む

「茉莉花もちょっと前まであんな感じだったなって思って」

『え?』

「人を寄せ付けないオーラ全開で、完全シャットアウトだったじゃん」

ハルトの言葉に確かに…と今となっては恥じらいすら覚える


『…また傷つくのが怖かったし、飛び込むことも出来なかった。だったら誰とも関わらないで一人でいた方が楽だって思ってたもの』

本当はそんな人達ばかりじゃないってわかっていたけど、小さい頃の記憶がずっと自分を縛り付けていた

他の人からすると、そんなこと、と思われることも自分には超えられない大きな壁だったのだ


「転校生も一応は華やかな世界にいるわけだし?周りと関わらない事情があるんじゃねぇの?」


『そうだね』


帰り際、小雨が降り茉莉花は鞄の中から折り畳み傘を出した


「梅雨だねぇー…」

ハルトは空を見上げたが、体は全く濡れていない

『…入って』

「え?いや、俺濡れねぇし」

『いいから。わかってるけど、気になるのよ』

雨が降り少し肌寒くなったのでセーターの袖を伸ばして傘の柄を持って言った

ハルトは困ったように笑うと大人しく茉莉花の傘の中に入る

「茉莉花、風邪ひくなよ?」

『…わかってる』

思ってたよりも至近距離になり、顔を赤める

でも、こうしてハルトと一つの傘に一緒に入りたかった

そうすると、ハルトが普通の人間の男の子だと思えるから


茉莉花の心はあったかくなり、ハルトにバレないように伸ばしたセーターの袖で口元を隠した