「川瀬も遅刻なんて珍しいなー。セーフにしといてやるから早く席つけー」


ありがとうございます!と言う彼女にクラスメイトが先生贔屓だー!と騒ぎ出す


それもそのはず、彼女は学校一と言って良いほどの美人で有名だ


以前、他校の男子生徒が校門で彼女を待ち伏せして告白しているのを見たことがある


整った顔立ちでクッキリした二重にふわふわのロングヘアー。おっとりと女の子らしい可愛い声で色白、手足もスラッとしている

育ちがいいのか、いくつも習い事をしていると聞いたことがある


男子は去ることながら、女子からも人気が高い


「綺麗な子だなー。モデルみたい」


席についた茉莉花の後ろでハルトは彼女を見てそう言った


ハルトをちらりと見ると、自分の席と対角線上にいる川瀬百合(かわせ ゆり)に目を奪われているようだった


『…ハルトって、ああいう美人さんがタイプなのね』


ぼそっと呟くとハルトは聞こえなかったのか、なんか言ったか?と聞き返すが茉莉花はそれを聞こえないフリをして一限目の授業を受けていた




いつもの様に、お昼休みは中庭にいた

時間に余裕があればお弁当を作って来るのだが、何分今日は遅刻だったので購買でサンドイッチを買ってそれを頬張っていた


「…なぁ、」


そんな茉莉花にハルトは声をかける


『なに?』


「お前はさっきから何を怒ってんだ?」


一限目からずっと機嫌が悪い茉莉花に、ハルトはとうとう観念したのか本人に直接真意を聞いてみた


『別に』


これは恥ずかしい時と嘘をついている時に言う口癖だとハルトは分かっている

こうなると茉莉花は実に頑固だ


言い当てるまでハルトが問いただすか、途中で茉莉花の機嫌が直るか


いつもならすぐに直る機嫌が、珍しく今日は長引いているのでハルトはこの問題は深刻なものだと認識した


ただ、考えても考えてもまるで見当がつかないのだ


ふぅ、と一息つくとベンチに座っている茉莉花の前に腕を組んでしゃがみ込んだ


自然と茉莉花を見上げる形になる


「わりぃ、マジでわかんねぇんだ。教えてくれるか?」


ハルトは優しくそう聞く。茉莉花も好きで機嫌が悪いわけじゃないのを分かっているからだ


今まできっと誰かに甘えたり、反発したり、そんな当たり前のことを彼女は出来ずに育って来たのだ


いつも我慢をし、言いたいことも言えずただ自分の胸にしまい込んで来たというのが一緒に過ごしてわかってきた


だからこそ、自分に素直な感情を出すのは嬉しいことだったし役に立てているのだと思っている


そして、素直に接すると茉莉花も素直に話してくれるのだ