そんな日常に慣れてきたある日、ハルトは一日中ムスッとしていた


『いったい何を不貞腐れてるわけ?』


茉莉花はいつもの様にカーテンを少し開けて布団に入りこんだ


「なぁ、いつになったら名前で呼んでくれるわけ?」


そう、不貞腐れてる理由は未だ茉莉花に名前を呼んでもらっていないことだった


『そんなの、呼ぶ時が来たら呼ぶでしょ』

今まで同世代の人の名前を呼んだことのない茉莉花にとってそれはすごく難しいことだった

ましてや異性となると、恥ずかしさも込み上げてくる


「ぜってーそう言って呼ばないね!一回言ってみろよ!そしたら楽になるって!」


『い、嫌よ!今はそうゆう状況じゃな…』

「茉莉花」


布団を被ってその場を免れようとするとハルトの真剣な声が響いた


腕を組み茉莉花のベッドに座り、少し前屈みになって茉莉花の顔に近付く


「言ってみろって。な?」

至近距離で見つめられ、まるで蛇に睨まれた蛙状態だ


『…は、ると』

「もっ回」

『なっ…!』

「茉莉花」

見つめたまま目尻を下げて、もう一度という表情をする


『…ハルト』

「…よくできました!」


とてつもなく顔が熱い

茉莉花はハルトにばれない様に、おやすみ!と言って布団を被った


当の本人は嬉しそうに宙を舞うと、呑気な声でおやすみーと返す


ドキドキと鼓動が聞こえるのはきっと気のせいだ!とギュッと目を瞑った


こうして幽霊の彼、ハルトと少女茉莉花の奇妙な生活が始まった