『お疲れ様でした』

夜の営業が終わりに近づき、着替えを済ませ茉莉花は上がりの時間に二人に声をかけた

「お疲れ様、茉莉花ちゃんこれ持って行きなさいな」


そう言って手渡したのは野菜や果物の入った袋だった


「また余っちまったからよかったら使ってくれ」

キッチンの奥からニコリと笑い店長が言う

本当は茉莉花は知っていた。余っているのではなく、わざと多く食材を注文して自分に託してくれているのだと。

自分に気を使わせないように余った、と言ってくれているのを


『…ありがとうございます!』


そんな二人の優しさに笑顔でお礼を言うこと、そしてこのお店に少しでも貢献することが恩返しだと考えている


気をつけて帰るんだよ、と見送ってくれる夫婦にお辞儀をして茉莉花は家路に着いた


「優しい店長さん達だなー」


ハルトは茉莉花の持っている袋を見て、重くないか?と聞いた


『…優しさの重みだよ』

茉莉花は柔らかい表情で貰った袋を胸に抱え込んだ

そんな茉莉花を見てハルトは少し顔を赤らめた


『さっきのお店ね、昔父と母がよく行ってたんだって。私も誕生日には父と二人であそこで過ごすことが多かったの』

そんなに遠くない過去なのに、何故か懐かしく思える


『そこでいつもスパゲティを注文するんだけど、小さい頃一人では食べ切れなくて父と分けて食べてたな…』


ああ、だからか


「…パスタ」


『え?』


茉莉花はいきなり愛犬の名前を呼ぶハルトの方へ向いた


「茉莉花の楽しかった思い出をいつでも思い出せるように、大好きな名前をつけたんだな」


『!』


お店の左端にあるテーブルがいつもの場所だった。カウチソファーに座って母との思い出話しをする父との大切な時間が確かにそこにあった

色褪せないように、忘れないように、大切な家族にそう名前をつけた


『べ、別に!なんだっていいでしょ!』


足早にハルトの前を歩く


「俺分かったんだからな!」


茉莉花の背中に向かって大きな声でそう叫ぶハルトに振り返る


「茉莉花が別にって言う時は照れてる時と嘘ついてる時だ!」

そう言ってニッと笑いこちらにピースサインをする

『ば、馬鹿じゃないの!』

幽霊に私のこと分かられたって嬉しくないから!って言うと、パスタを迎えに茜の店まで走って行った


「素直じゃないやつ」


困ったように笑いながら茉莉花の後を追った