「じゃあ、今日は遅いし鍵返すついでに先生に聞いとくんで話は明日」

 榊と別れて自然と三人で帰る。偽メガネ君とモテ男君と私。

「ねえ、鏡野さん、隆のさ伊達メガネない方がいいよね?」
「え? ああ、うーん。人にはそれぞれ事情があるし」

 正直、榊がいなければ、まだ私もメガネをかけてた。柏木君には柏木君なりのなにかメガネをかけないといけない事情があるのかも。

「でしょ? 瞬は平気だけど俺は嫌なんだよ。キャーキャーうるさいの」

 柏木君なりの理由発見。女子から逃げるためね。

「適当に彼女作ったら?」

 橘君、不謹慎だよ。

「橘君はどうしてるの?」

 橘君は適当に彼女作ってるのか?

「別に、気にしない」

 橘君の性格出てるなあ。けど、自分はしてないのね、適当に彼女作ったりするの。

「あ、そうだ。鏡野さんがなってよ! 彼女。それならメガネを取るよ」

 な、なんでそんな話になるの。っていうか、柏木君、演技し過ぎだよ。オドオドしたところがまるでなくなってるし。性格どれだけ演出してたの。

「それなら、そのままでいいんじゃないか。だいたい俺もメガネだし」

 榊この話を流してくれたのはいいんだけど、突然後ろから来て私の肩を組むのはやめて。
 そして、何気にメガネをかけてても俺はモテてるんだぞって話になってないか。
 というか! この三人モテて当然な話のスタートラインだし。どんな人生なんだよ。

 ……あいつ、桐山もそうだったんだろうな。モテてたもんな。それが、私の付き合ってからの好きになれないという告白。それが、桐山には受け入れられなかったのかな。


 やはり仲がいいと思ったら中学どころか小学生からの友達だったらしい、橘君と柏木君。
 が、高校に入って柏木君がメガネをかけた頃から話ができなくなって、ここ1年以上あまり話をしてなかったらしい。だからか、橘君なんか嬉しそうだった。柏木君が橘君を避けたのは一緒にいると自が出てしまうからだろう。
 今日の柏木君、態度変わり過ぎだったもんね。



 という訳で小学校の校区が一緒な彼らとマンションが一緒な私たちは途中で別れた。

 またもスーパーへ。
「私は昨日の食材あるからいいって」
「なに言ってるんだよ。今日はアリスの番だろ!」

 自分で言い出して私を責めるのはやめて欲しい。もういったいこいつは! どういう風に考えてるんだよ。
 あれ食べたいとかこれがいいとかうるさい!
 渋々お会計済ませてマンションへと向かう私達。


「え?」

 マンションの前に桐山がいた。誰なの? 私の引越し先を桐山に漏らしたのは! 私の個人情報漏れ過ぎ!!

「あれか? 元彼氏?」

 榊が嬉しそうに聞く。なんで嬉しそうなの。

「うん」

 とにかく行くしかない。このままだと帰れない。桐山の表情だとすぐには帰りそうにもなさそうだし。
 ああ、メガネをしてたら……って、いくらなんでも私だって気づくか。
 桐山がこちらを見る。私が目に入ったみたい。そして同じ学校だろう制服の榊も。
 桐山は走ってこっちに来る。

「アリス! あの俺、やっぱり。アリスが忘れられない」
「だよな。可愛いもんあ。でも、もう俺のもんだからさ! 何度も言ってるけど」

 買い物袋を下げてない方の手で私の肩を抱く榊。今まで散々されてきたのが役に立ったみたい。榊の行動に全く抵抗なしの私に驚いてる桐山。

「でも、お前、榊だよな? アリスの家の隣だろ?」

 情報が筒抜けだよ。あ、マンションの郵便受け情報か。私を待ってる間に桐山が情報を仕入れたんだね。

「榊だけど、隣だけど、アリスと付き合ったらマズイの?」
「演技だろ? そんなの。アリスがそんなの許す訳ない」

 あー、私のイメージってそういう感じだったのね。確かにまともに付き合ってないもんね、桐山と。

「じゃあ」

 と、榊は買い物袋を肩から外して私の方に向き直り、私の肩にあった榊の手を私の顎に当て私にキスをした。

 ガコン
 桐山の荷物が落ちたみたい。
 榊の唇が離れて見てみると荷物を落とし、口が閉じれない桐山がいた。
 さすがにあんだけキスをされてたからか、その雰囲気が桐山にも伝わったみたい。

「アリス……キス……出来るの……」

 いや、それはどういう質問なんだろう?

「君とは出来なかっただけじゃない?」

 榊は止めを刺してる。桐山はもう動きも止まってるし。

「じゃあ、あの頑張って」

 何かわからないが桐山を応援してみた。動かない桐山の横を通り過ぎようとすると突然桐山に腕を握られた。榊のようなソフトなものではなく、全力で握ってる。い、痛い。

「俺とそいつの何が違うんだよ!」
「全部」
「え?」
「手の握り方から私に対する態度まで全部だよ」

 意外にすらすらと言葉が出てきた。い、痛い。桐山さらに私の腕を握る手に力込めてるし。

「離せよ! こんなに握ったら痛いだろう。あー、もう赤くなってる」

 榊が桐山の手を解いてくれた。ガサゴソとスーパーの袋の中を探って冷やせる物を探してたみたいで、保冷用に袋にいれた氷を出して、私の腕を冷やす。

「大事にしないから離れてくんじゃないか?」
「じゃあ、桐山。バイバイ」

 今度こそ、その場を立ち去りマンションの玄関に入る。自動ドアが閉まる。セキュリティーがあるからここまで入れない。ホッと息をつく。