「そろそろ寝ようか。」
「……うん」

ゆっくりと水月先輩から目を逸らしながら小さく返事をすると、いいこ、と優しく微笑みながらソファーからゆるりと立ち上がる。


離れていく体温にさみしさを感じて、思わず縋りそうになるのを、一瞬で自分を制して抑える。


その後ろをついて行くように、のそのそと立ち上がると、大きな広い背中を眺めながら祈るように手を握りしめた。


もう、これで何度目だろう。


幾度となく訪れる、この不安定な感情。
ただそっと、壊れないように、壊さないように、一部始終抱きしめて持っておくしかなかった。


…歩きながら、ふと、窓の外から聞こえてきた雨の音に、あぁ、降ってきたか。と目を向ける。


子供の頃雨上がりに水溜りを
覗いているのが好きだった。
雨のひと雫を 掌で何度も
掬おうとするけど零れてゆく。


その幼心にも感じた切なさが、何故かたまらなく愛おしかった。