「はあ〜」

普段よりも、時間がたつのが遅かった。

なんとか耐え抜き、お客を出口まで見送った可憐は、

トイレに行く為に、社員出入り口の扉を開けた。

年月を感じるくすんだ色の壁に、溜め息をついて、手をつき、可憐は少し…気を緩めた。

がさがさ…。

ビニールが、擦れる音がしたので、

奥の事務所に続く長い廊下の先を、可憐は見た。

ホールの氷がなくなったのだろう。

事務所に行く途中で、左に曲がると、厨房があった。

そこにある製氷機から、大量の氷をビニール袋にいれて、

先程のボーイが近づいてきた。

「あっ」

思わず声をだしたけど、可憐を無視するかのように、

ボーイは、可憐の横を通り過ぎていく。

何か言おうと思うけど、言葉出ない。

そんな自分がもどかしい。

扉を開けて、ホールにでようとしたボーイは、

足を止め、ほんの少しだけ振り返った。

そして、口を開いた。

「あんた…。この商売始めたばっかみたいだから…教えてやるよ」

右肩で、扉を開けながら、

「気をつけろよ。この店は、常連が多い」