朝目覚めて、したくして、おばちゃんと待ち合わせをした渋谷のハチ公前に向かった。

人ごみの中ひょろひょろと待ち遠しく僕を探すおばちゃんが見えた。

「お久しぶりです。」
「久しぶり。ちょっと痩せた?」
「そうですね。」
「でも元気そうでよかったわ」

相変わらず甘く優しいほほ笑みを見せる。

「じゃあ約束の場所に早速行きましょう」

そして桜公園にむかう。

大都会の片隅に幻想的な色が浮かび上がっている。
その幻想的な空間にのまれるように公園に近付く。
一面に広がる桜。
桜に囲まれた僕は、足が止まる。

美しい。そして儚い。

じっくりとその幻想的なピンク色の空間を食べるように、飲み込むように見渡す。

「きれいでしょ。」
「はい。見たことない。こんなきれいな桜。」

「そうでしょう」
おばちゃんが満足気にほほ笑んだ。

「この日のためにお弁当作ってきたのよ。一緒に食べましょう」
そう言って二人はベンチに腰をかけた。
空気が過ぎ覚まし、目に見えるのはただ美しい。
そして口に入り噛みしめて味あうおばちゃんの弁当はただ優しい。
至福のひと時を過ごす。

「おいしい?」
「はい。もう何にも例えようもないくらいに」
「ははははは。言いすぎよ。ちゃんと噛んで味わって食べてね」

「おばちゃん。ありがとう。」

「いいのよ。でもおばちゃんってのはやめて。」
「あ。そおういえば名前聞いていなかったですね」
「かずみって言うの。これからは、かずみさんって呼んでね」

「かずみさん。」
「どうしたの?」

「僕、ここでやり直します!」

「えっ?」
さっきまで優しく微笑んでいたかずみさんの顔が一変し、険しく言葉を返す・

「どういうこと?ここに住むってこと?」

「はい。そうです。」

「駄目よ。帰りなさい。東京はね。住むとこじゃないの。遊びに来るところなの」
厳しく少しばかりか声を張り上げた。
「え。でも。もう部屋も契約したんです。。。どうしたんですか」

かずみさんは厳しい表情で遠くを見つめていた。

「そう。もう部屋まで決めちゃったのね。てっきり遊びに来ただけだと思ってたわ。」

「何か問題でもありますか??」

「あなたには田舎でゆっくりと時間を過ごして、更生してほしかったな。
東京はあなたが、思っているような場所じゃないわ。
汚いものはいくらでもある。誘惑も危険も。」

「わかっています。一度ここで住んでいたのですから。
心配ないですよ。僕はここでやり直して見せます」

「そう。」
何故か、かずみさんの表情がうかばれない。

「保護観察官はどうしたの?」

「そう。その話がしたくて。。。かずみさんにお願いしたいんです。」

「わかったわ。もう部屋まで決めちゃったのだからしょうがないわね。
なるわ。あなたは、ここでどんな悪に出くわしてももう負けちゃいけないよ。
きっと変わるのよ。」

「はい。」

不思議でたまらなかった。
僕がここで住むことに、これほどかずみさんが反対したこと。
何かわけがあるような。

考えてもわからないから、すぐに考えるのをやめた。

そして、至福のひと時を過ごし終え、渋谷に着いた・

「じゃあね。こまめに連絡してね。まずは職探しね」
「はい。そうですね。また連絡します。今日はありがとうございました」

そしてかずみさんと別れた。
僕は職探しではなく早速、直樹に連絡を入れた。

「もしもし」
「直樹、俺だよ俺。幸一。」
「幸一!」
「東京来たぜ」
「やっぱり来てくれたんだ!すぐに会おう。今どこ?」
「渋谷だよ」
「迎えに行くからぶらぶらしててよ!」
「了解!どのくらいかかる?」
「30分くらい。また連絡する」

そう言って電話を切った。

僕は、時間をつぶすためにこの広々と輝くネオン。
活気ある人々の大きな流れに身を任せて、命を感じる。
日本の心臓。
流れる一人一人の顔から感じる命の鼓動

みんな生きている。みんな歩んでいる。

恨みに命を取られて、閉ざされた世界で長く過ごし
自由に迷いそうになり、ここに来た。
今この自由が五臓六腑に浸みわたる。
不安でない、恐怖でもない、希望だけが心をぬらす。

俺は、ここで生きていく。
強くたくましく。
流れる活気あるここの人たちのように。

大きな流れに、人々のうねりに負けないように。
生きていく。
一度はこの街に負けたけれど、今度こそはと
強く強く希望と決意を噛みしめた。
そんなことを考えながらぶらぶらと歩いていると
電話が鳴った。

「幸一。着いたぜ。今どこ?」
「渋谷駅の近くをぶらぶらしてたよ。」
「八公前までこれる?」
「大丈夫、今から向かう」

そう言い電話をきってハチ公前にむかった。