気がつけば、夜がふけていた。
そしてまた、ちらちらと粉雪が舞い始めた。
薄暗く悲しく照らす、外灯の灯りを
優しく真っ白な小さな粉雪の群れ達が輝き、
夢のひと時を演出してくれる。
僕を癒してくれるように。
そして夕食がくばられ、食べ終えて、集団寮へ行く準備を終える。
じっとじっとその時を待った。
「準備はいいか?」
そう言って教官が鉄格子の前にたった。
「はい。」
じゃらじゃらと音を鳴らして鍵を開ける。
長く長く暗い廊下を歩く。
その果てには長い長い生活が待っている。
厳しく、自由なき日々が。
集団寮へと続く廊下を。
恐怖感を背負って歩いた。
そして着いた。この扉の向こうに集団寮。
重たい扉を開いた。
あいかわらず院生達は、きびきびと軍隊のように動き回る。
感情なきロボットのような表情で。
また始まる。。。
直樹がいた。心配そうにこちらを見ている。
すると教官が俺の元へと。
「鬼。」
僕の心がつぶやく。
その瞬間、この数日感じていた優しい感情を両手で抱え込み隠した。
歩いてきた教官は変わってきた担当ではなく、入所時のあの鬼が戻っている。
「どういうことだ。」
心がまたつぶやく。
そして苛立ちが震える。
「入れ。」
僕は、疑問を抱えたまま、手慣れた手つきで片づけをする。
そして寝床でじっと座って壁を見ている。
なんであいつがここにいるんだよ。
くそっ。
そう僕の心が鳴く。
いつものように視線を感じる。
院生達の憎しみが伝わる。
でもこの視線と戦い、ここで暮らしていく覚悟はできていた。
かかえた優しい感情は離さない。
憎しみに食べられないように離さない。
「就寝準備!」
冷酷な鬼の声が寮内を包む。
慣れた手つきでパジャマに着替え、脱いだ服をたたみ。布団を敷いた。
すばやく。
神技のように。
そして一寸のずれもなく、横一列にならび、1から始まり点呼を終える。
寝床に移動すると、院生達が俺の布団やまくらを踏んでそれぞれの寝床へと。
負けない。相手にしない。
僕も寝床についた。
やはり、怖い。明日と言う日が怖い。その日がまだ永遠とこの先に続く。
優しい感情が、なおさら恐怖感を抱く。
大切な感情を決意を抱えて目をつぶる。
トイレに行きたくなったが、少し我慢をしている。
あの人格を失った場所にいきづらい。
でも僕は、我慢できず行くことにした。
高まる鼓動をおさえながら歩く。
スリッパがない。
誰も入っていない。
少し安心した。
しょうべんをしていると、トイレの窓から見える民家。
はるか遠くに見える灯り。
その灯りから当たり前のように優しい会話が聞こえてきそうで。
社会が恋しい。
自分を諦めていた時より、強く強く、恋しく感じる。
恋しさは悲しみ、悲しみはここでは数倍の苦しみにすり替わる。
でも負けない。
民家の灯りから目をそらし、寝床に向かい、眠りに着いた。
それから始まった。長く、毎日続く厳しいプログラム。
感情を撫でてやる時間などなく、過ぎていく日々。
雨の日には雨の思い出が
雪の日には雪の日の思い出が
よみがえる思い出が
冷たい雨も風もなおさら悲しく見せさせる。
青い空もなおさら切なく見せさせる。
雨の日も雪の日も美しくかかる虹もなおさら寂しく見せさせる。
求める愛、抱いた優しさと穏やかさの代償だ。
それに毎日嫌がらせは続く。
感じる憎しみの目。囲まれて暮らす悪の目。
吹き出しそうな憎しみ。ぶり返しそうな悪の感情。
飽きずに飽きずにと心に突き刺さるけれど
かかえた優しい感情を離さない限り、
傷をすぐに癒してくれる。
直樹も嫌がらせを受けているところも何度も見る。
爆発しそうな感情。
それでも直樹の顔を見ると抑えてくれる。
直樹はどうやら僕がどこか、なんとなく変わったことに気づき
安心しているような表情をしている。
ある日勤務労働の休憩時間に、また直樹が話してきた。
「ありがとう。」
「いや、あれは単に俺が切れちまっただけだよ。お前のせいじゃない」
「すごく心配したよ。お前がどうなるのかって。移送なんかされたらたまらねえよ。
ずっとトイレで殴られている方がよっぽどましだよ。ここに帰ってきた時は、本当に
安心した。今はお前のおかげでチクリもなくなった。殴られなくなった。感謝してる。
でもまだ心配なんだよ。お互い小さい嫌がらせが続いているからお前がまた切れないかって。」
「大丈夫。あんなことで。お前も相手にするなよ。」
「前もそう言ってブチ切れただろ。俺はなんとも思ってないからもうやめろよ。」
「そうだったよな。でももう大丈夫。ありがとう。俺は決めたんだ。
悪を断ち切り愛をつなぐ、。
長く続いた悪から何とか抜け出し、いつかここから出たらずっと無縁だった愛に巡り合い
つないでいきたい。それが俺の夢なんだ。」
教官の目が向く前に、二人は静かに会話をやめる。
過ぎていく日々よ。いつも聞きたくなる。
「俺はいつここを出られるのか。その日が来るのだろうか。」
僕は、心は確かにそう願っているのになぜか想像ができない。
わけがわからない感情。
そして、日を増すことに院生達がここから出ていく。
仮面を最後までかぶり続け、暗い絵が描かれたままの画用紙を持って。
僕を憎み続けた悪の目を隠し通して。
泣いている。泣いている。
ここを去る院生は、朝一番の朝礼の前に、突然呼ばれて集団寮から出ていく。
呼ばれるとみんな、おどおどして独居坊へ移る準備をする。
みんなそうだった。
ここの生活が苦しくて、苦しくてたまらないけれど、
なぜか社会にでることが明確に想像できない。
呼ばれた院生は嬉しいのか、怖いのかわからない顔をして驚いている。
みんな願う心とは裏腹に、社会での自由で楽しい生活が明確に想像できない。
驚いている表情に、かすかに見える恐怖感。
そして呼ばれた院生はそれから1週間独居房で過ごす。
集団寮の院生達はいつものように朝食を終え、数分の朝礼のためだけに着替える制服をはおって、点呼をとり、朝礼を行う中庭に向かう。
バカでかい掛け声、鳴り響く足音、一寸のずれもない動きで。集団移動する。
外に出る前に一度鬼の掛け声でピタッと行進を止める。
急に静かになる廊下。
その先に、独居房で1週間を過ごし終えここを出る院生が向かいに立っている。
どいつもこいつも誇らしく自慢げに立っているが、何にも更生なんかしていない。
でもそんな面にもかすかに見える希望と恐怖感。
互いにまじりあい戸惑いが見える。
社会で生きていけるのだろうか。
自分は本当に更生したのだろうか。変わったのだろうか。
今さらビビってる。
外靴に履き替え、外に出るとまた一列にならび点呼をとり、行進する。
そしてそこで誰でも言えそうな例え話を自慢げにする副院長。
それが終わると、ここをでる院生が挨拶をする。
泣いている。泣いている。
今さら。泣いている。
中庭の端にむかえにきている親。
つられて泣いている。
喜びからか、今まで抱えてきた苦しみの解放感からか。
弱々しく泣いている。
「僕は今日から社会に出ます。
ここで過ごした日々、学んだ日々を決して忘れません。
先生方、院生達、長い間、本当にありがとうございました。
もう会うことはありませんが、二度と人に迷惑をかけないよう
今日から厳しい社会にでて頑張ります」
そう言っている。
僕を憎み、嫌がらせをし続けたやつが
今になって言葉を走らせながら泣いている。
この地獄から解放される喜びからか、安心感からか、
でも確かに皆心から泣き。言葉には嘘はない。
純粋に涙を含んだ潤いある目。
いつも皆、ここでは見たこともない目をしている。
「どうせ、出て1週間もすれば奥に控える目が出てくるよ。」
そう思って見ていた。
挨拶が終わると、院生は親の元へ行き、院生達は拍手をしながら見送る。
院生が親の元に着くと院生達にむかって深く、深く頭を下げる。
そして中庭の端にある建物へ。その向こうにわずかに見える社会につながる出口。
建物にはいると親と抱き合い、その出口を出ていく。
その背中を最後まで見守る。
触れる愛情。優しさ。かすかに見える自由。
鬼の一言でその感情は、一瞬のうちに奪いされ、方向転換をし、集団移動で地獄の勤務作業へ向かう。
そしてまた、ちらちらと粉雪が舞い始めた。
薄暗く悲しく照らす、外灯の灯りを
優しく真っ白な小さな粉雪の群れ達が輝き、
夢のひと時を演出してくれる。
僕を癒してくれるように。
そして夕食がくばられ、食べ終えて、集団寮へ行く準備を終える。
じっとじっとその時を待った。
「準備はいいか?」
そう言って教官が鉄格子の前にたった。
「はい。」
じゃらじゃらと音を鳴らして鍵を開ける。
長く長く暗い廊下を歩く。
その果てには長い長い生活が待っている。
厳しく、自由なき日々が。
集団寮へと続く廊下を。
恐怖感を背負って歩いた。
そして着いた。この扉の向こうに集団寮。
重たい扉を開いた。
あいかわらず院生達は、きびきびと軍隊のように動き回る。
感情なきロボットのような表情で。
また始まる。。。
直樹がいた。心配そうにこちらを見ている。
すると教官が俺の元へと。
「鬼。」
僕の心がつぶやく。
その瞬間、この数日感じていた優しい感情を両手で抱え込み隠した。
歩いてきた教官は変わってきた担当ではなく、入所時のあの鬼が戻っている。
「どういうことだ。」
心がまたつぶやく。
そして苛立ちが震える。
「入れ。」
僕は、疑問を抱えたまま、手慣れた手つきで片づけをする。
そして寝床でじっと座って壁を見ている。
なんであいつがここにいるんだよ。
くそっ。
そう僕の心が鳴く。
いつものように視線を感じる。
院生達の憎しみが伝わる。
でもこの視線と戦い、ここで暮らしていく覚悟はできていた。
かかえた優しい感情は離さない。
憎しみに食べられないように離さない。
「就寝準備!」
冷酷な鬼の声が寮内を包む。
慣れた手つきでパジャマに着替え、脱いだ服をたたみ。布団を敷いた。
すばやく。
神技のように。
そして一寸のずれもなく、横一列にならび、1から始まり点呼を終える。
寝床に移動すると、院生達が俺の布団やまくらを踏んでそれぞれの寝床へと。
負けない。相手にしない。
僕も寝床についた。
やはり、怖い。明日と言う日が怖い。その日がまだ永遠とこの先に続く。
優しい感情が、なおさら恐怖感を抱く。
大切な感情を決意を抱えて目をつぶる。
トイレに行きたくなったが、少し我慢をしている。
あの人格を失った場所にいきづらい。
でも僕は、我慢できず行くことにした。
高まる鼓動をおさえながら歩く。
スリッパがない。
誰も入っていない。
少し安心した。
しょうべんをしていると、トイレの窓から見える民家。
はるか遠くに見える灯り。
その灯りから当たり前のように優しい会話が聞こえてきそうで。
社会が恋しい。
自分を諦めていた時より、強く強く、恋しく感じる。
恋しさは悲しみ、悲しみはここでは数倍の苦しみにすり替わる。
でも負けない。
民家の灯りから目をそらし、寝床に向かい、眠りに着いた。
それから始まった。長く、毎日続く厳しいプログラム。
感情を撫でてやる時間などなく、過ぎていく日々。
雨の日には雨の思い出が
雪の日には雪の日の思い出が
よみがえる思い出が
冷たい雨も風もなおさら悲しく見せさせる。
青い空もなおさら切なく見せさせる。
雨の日も雪の日も美しくかかる虹もなおさら寂しく見せさせる。
求める愛、抱いた優しさと穏やかさの代償だ。
それに毎日嫌がらせは続く。
感じる憎しみの目。囲まれて暮らす悪の目。
吹き出しそうな憎しみ。ぶり返しそうな悪の感情。
飽きずに飽きずにと心に突き刺さるけれど
かかえた優しい感情を離さない限り、
傷をすぐに癒してくれる。
直樹も嫌がらせを受けているところも何度も見る。
爆発しそうな感情。
それでも直樹の顔を見ると抑えてくれる。
直樹はどうやら僕がどこか、なんとなく変わったことに気づき
安心しているような表情をしている。
ある日勤務労働の休憩時間に、また直樹が話してきた。
「ありがとう。」
「いや、あれは単に俺が切れちまっただけだよ。お前のせいじゃない」
「すごく心配したよ。お前がどうなるのかって。移送なんかされたらたまらねえよ。
ずっとトイレで殴られている方がよっぽどましだよ。ここに帰ってきた時は、本当に
安心した。今はお前のおかげでチクリもなくなった。殴られなくなった。感謝してる。
でもまだ心配なんだよ。お互い小さい嫌がらせが続いているからお前がまた切れないかって。」
「大丈夫。あんなことで。お前も相手にするなよ。」
「前もそう言ってブチ切れただろ。俺はなんとも思ってないからもうやめろよ。」
「そうだったよな。でももう大丈夫。ありがとう。俺は決めたんだ。
悪を断ち切り愛をつなぐ、。
長く続いた悪から何とか抜け出し、いつかここから出たらずっと無縁だった愛に巡り合い
つないでいきたい。それが俺の夢なんだ。」
教官の目が向く前に、二人は静かに会話をやめる。
過ぎていく日々よ。いつも聞きたくなる。
「俺はいつここを出られるのか。その日が来るのだろうか。」
僕は、心は確かにそう願っているのになぜか想像ができない。
わけがわからない感情。
そして、日を増すことに院生達がここから出ていく。
仮面を最後までかぶり続け、暗い絵が描かれたままの画用紙を持って。
僕を憎み続けた悪の目を隠し通して。
泣いている。泣いている。
ここを去る院生は、朝一番の朝礼の前に、突然呼ばれて集団寮から出ていく。
呼ばれるとみんな、おどおどして独居坊へ移る準備をする。
みんなそうだった。
ここの生活が苦しくて、苦しくてたまらないけれど、
なぜか社会にでることが明確に想像できない。
呼ばれた院生は嬉しいのか、怖いのかわからない顔をして驚いている。
みんな願う心とは裏腹に、社会での自由で楽しい生活が明確に想像できない。
驚いている表情に、かすかに見える恐怖感。
そして呼ばれた院生はそれから1週間独居房で過ごす。
集団寮の院生達はいつものように朝食を終え、数分の朝礼のためだけに着替える制服をはおって、点呼をとり、朝礼を行う中庭に向かう。
バカでかい掛け声、鳴り響く足音、一寸のずれもない動きで。集団移動する。
外に出る前に一度鬼の掛け声でピタッと行進を止める。
急に静かになる廊下。
その先に、独居房で1週間を過ごし終えここを出る院生が向かいに立っている。
どいつもこいつも誇らしく自慢げに立っているが、何にも更生なんかしていない。
でもそんな面にもかすかに見える希望と恐怖感。
互いにまじりあい戸惑いが見える。
社会で生きていけるのだろうか。
自分は本当に更生したのだろうか。変わったのだろうか。
今さらビビってる。
外靴に履き替え、外に出るとまた一列にならび点呼をとり、行進する。
そしてそこで誰でも言えそうな例え話を自慢げにする副院長。
それが終わると、ここをでる院生が挨拶をする。
泣いている。泣いている。
今さら。泣いている。
中庭の端にむかえにきている親。
つられて泣いている。
喜びからか、今まで抱えてきた苦しみの解放感からか。
弱々しく泣いている。
「僕は今日から社会に出ます。
ここで過ごした日々、学んだ日々を決して忘れません。
先生方、院生達、長い間、本当にありがとうございました。
もう会うことはありませんが、二度と人に迷惑をかけないよう
今日から厳しい社会にでて頑張ります」
そう言っている。
僕を憎み、嫌がらせをし続けたやつが
今になって言葉を走らせながら泣いている。
この地獄から解放される喜びからか、安心感からか、
でも確かに皆心から泣き。言葉には嘘はない。
純粋に涙を含んだ潤いある目。
いつも皆、ここでは見たこともない目をしている。
「どうせ、出て1週間もすれば奥に控える目が出てくるよ。」
そう思って見ていた。
挨拶が終わると、院生は親の元へ行き、院生達は拍手をしながら見送る。
院生が親の元に着くと院生達にむかって深く、深く頭を下げる。
そして中庭の端にある建物へ。その向こうにわずかに見える社会につながる出口。
建物にはいると親と抱き合い、その出口を出ていく。
その背中を最後まで見守る。
触れる愛情。優しさ。かすかに見える自由。
鬼の一言でその感情は、一瞬のうちに奪いされ、方向転換をし、集団移動で地獄の勤務作業へ向かう。
