母や祖母より先に逝った亡き祖父。
口数の少ない人だった。
幼きころ野球で夢中だった。
練習にいつもついて来てくれた。
三振しようが、ホームランを打とうが、何も表情は変わらない。
けなしやしない。褒めやしない。
無言で見守り続ける男の愛を、何に例えよう。
じいちゃんが載る自転車の後ろにのって練習場に行く。
無言の背中を見ながら練習にいく。
大きくなり、自分で自転車が乗れるようになり、二人で自転車で練習場の向かうようになった。
ある日僕ははでに転んでしまった。
その時無言の男を捨てて心配したじいちゃんの愛。何に例えよう。
畳のふしめにミニカーを走らせ
無邪気にあそぶ自分を見て優しいしわで微笑むばあちゃん。
敗れたユニホームを丸めた背中で縫う。
けがをして帰ると、庭に咲くアロエを取り塗ってくれた。
自転車で転んだ時は、おまもりをグローブが入っている袋につけてくれた。
毎日毎日仏壇に手を重ねてお経を唱える、ばあちゃん。
まねをするように横に座り、僕も、お経を唱える。
お経の書かれた冊子をそっと横に出し、
無言で唱えている場所を指でさし、拝むお経のスピードを落として
ゆっくりとゆっくりと一緒におがんだ。
この愛を何に例えよう。
寝る前には湯を沸かし、湯たんぽに入れる。
布団にはいればばあちゃんの香り。
湯たんぽのぬくもりそしてばあちゃんのぬくもりと共に眠る。
この香り、温もりを何に例えよう。
透き通った美しい目で僕を見る亡き母
わが母のように思えない美しさと儚さ。
でもしっかりと伝わる母の優しさ。
僕と、ばあちゃんとじいいちゃんの生活を支えるためスナックに勤める
母はいつも夜は、いない。昼は僕がいない。
でも朝起きれば毎日見る。母の優しい笑顔。
唯一の休みの日はすべて僕に時間を費やす。
一緒にご飯たべて、買い物をし、映画を見て
夕陽の元手をつないで、家路をたどったあの日。
母だけど。まるでデートをしているような感覚だった。
それだけ貴重な時間。
専業主婦の母をもつ者にはわからない感覚だろう。
寝る前によく歌ってくれ歌。「春よ。」
母の好きな歌。
聞こえてくる声は美しく、優しく。
透き通るような声。
この声を何に例えよう
休みの日は一緒に寝てくれた。
昼夜逆転の生活をおくる母が眠れるはずもないのに
酒も飲まず、ただずっと朝まで横でいてくれた。
優しい温もりと共に眠った。
この優しさと、温もりを何に例えよう。
亡き3人の愛は何にも例えようがない。
いくら考えてもわからない。
ただただ温かい。
今はどこにいるのかわからない。
今僕を見えているのかどうかも、わからない。
俺は、俺は、こんなところにいるけれど。。。
きっと見ていてくれている。
きっとあの空で生きている。
僕は、込み上げた悔いが、留まることをしらない。流れる涙も留まることを知らない。
今はこんな俺だけど、ずっと変わらず見ていてください。
きっときっと変わって見せます!!
僕の戸惑いがまた強い決意に変わる。
気がつけば外を眺めると雪はやみ、どこまでも澄んだ青空。
そしてふんわりと優しくうきあがった虹。
遠い遠い場所にかかる虹。
きれいだ。
幻想的にあらわれた虹は儚く消えていった。
まるで幻だったかのように消えていった。
残ったのはどこまでも澄んだ青空。
いつものように不気味に静まり返った中庭に朝日が照らし
鳥たちが泣く。
バカでかい大音量のチャイムがなり一日が始まった。
すると、教官と先生が独房の前に立ち。
鍵をあけて入ってきた。
軽く診察を終えて
「もう大丈夫です。」
そう教官につたえ、出て行った。
「じゃあ、夕食後に集団寮にもどるぞ。準備しておけ」
そう言い残し、教官も独房をでた。
あそこに戻るのか。
どうも愛と優しい感情をもった今の自分は、とても弱くなったような気がする。
こんな俺のままじゃあそこではつぶされる。
僕は、そうとてつもない危機感を感じた。
思い出した感情が、思い出が顔を出すたびに
ここでの暮らしが怖くなる。
いつ出られるかわからない。
社会にでる自分を想像すらできないほどに
長く長く続くここでの日々。
愛を求めたせいか、愛を思い出したせいか、
たまらなくここから早く出たいと思ってしまう。
くそだと思っていた社会がたまらなく恋しくなってしまう。
また感情を押し殺し、ロボットのように厳しく忙しい毎日を過ごす。
また悪の視線をあびながら、自分の感情をなでてやる時間さえない
あの生活がどこまでも、どこまでも続く。
愛を求めれば怖くなる。
愛を拒めば憎しみが生まれる。
憎しみを抱けば自分を捨てる。
自分を捨てれば悲しくなる。
悲しくなれば愛を求める。
いい加減にしてほしいサイクル。
普通の人間なら、こんなサイクルの中で溺れる者はいないだろう。
愛を求めても、怖くなんかならない。
愛を拒んだりしない。
自分を捨てるほど、人を憎んだりしない。
純粋に愛を求め、人を愛して、自分を愛している。
それが人のあるべき姿。
それがよりよい人生。
なぜ俺はこのサイクルにはまり溺れるのか。
なぜ俺は普通の人間のように生きられないのか。
なぜ俺はあるべき人の姿になれないのか。
僕は自問自答する。
そう、院長が言うように心の深き場所に傷がある。悪がある。
だから愛を求めれば怖くなり、サイクル中にはいってしまう。
院長が言った言葉が頭から離れない。
悪を断ち切れ。
この心の傷、この悪を断ち切れば
愛を求めたって怖くならない。
怖くなるのはこの傷と、悪が、また人を憎み、人を傷つけ
愛したものを失ってしまうから。
でももう復讐は終えた。
きっとこの傷をいやし長年共に過ごしたこの悪を断ち切ってみせる。
そして自由に人を愛したい。
でも俺は、まだまだここにいる。
ここにいるとそう簡単にはサイクルから抜け出せない。
この愛を感じる感情を撫でてやる時間もない、
撫でさせてもくれない。
この感情を撫でれば、撫でるほど社会が恋しくなる。
恋しくなるとここの生活が苦しくなる。
ついていけなくなる。
そうここは罪を犯した者が、収容されている場所。
愛なんてこれっぽっちもない場所。
ただ厳しいプログラムにのって願う心を我慢し
過ごしていかなければならない。
だからといって愛なんて邪魔なだけ。
そう思うことは絶対にしない。
しっかりとこの胸に宿し、
ここでの生活に耐えて罪を償う。
憎しみに、抱く愛を食べられないよう心の誓って強くここで生きていく。
いつか、ここを出る日が来るまで。
そう、僕は、感情をまとめた。
口数の少ない人だった。
幼きころ野球で夢中だった。
練習にいつもついて来てくれた。
三振しようが、ホームランを打とうが、何も表情は変わらない。
けなしやしない。褒めやしない。
無言で見守り続ける男の愛を、何に例えよう。
じいちゃんが載る自転車の後ろにのって練習場に行く。
無言の背中を見ながら練習にいく。
大きくなり、自分で自転車が乗れるようになり、二人で自転車で練習場の向かうようになった。
ある日僕ははでに転んでしまった。
その時無言の男を捨てて心配したじいちゃんの愛。何に例えよう。
畳のふしめにミニカーを走らせ
無邪気にあそぶ自分を見て優しいしわで微笑むばあちゃん。
敗れたユニホームを丸めた背中で縫う。
けがをして帰ると、庭に咲くアロエを取り塗ってくれた。
自転車で転んだ時は、おまもりをグローブが入っている袋につけてくれた。
毎日毎日仏壇に手を重ねてお経を唱える、ばあちゃん。
まねをするように横に座り、僕も、お経を唱える。
お経の書かれた冊子をそっと横に出し、
無言で唱えている場所を指でさし、拝むお経のスピードを落として
ゆっくりとゆっくりと一緒におがんだ。
この愛を何に例えよう。
寝る前には湯を沸かし、湯たんぽに入れる。
布団にはいればばあちゃんの香り。
湯たんぽのぬくもりそしてばあちゃんのぬくもりと共に眠る。
この香り、温もりを何に例えよう。
透き通った美しい目で僕を見る亡き母
わが母のように思えない美しさと儚さ。
でもしっかりと伝わる母の優しさ。
僕と、ばあちゃんとじいいちゃんの生活を支えるためスナックに勤める
母はいつも夜は、いない。昼は僕がいない。
でも朝起きれば毎日見る。母の優しい笑顔。
唯一の休みの日はすべて僕に時間を費やす。
一緒にご飯たべて、買い物をし、映画を見て
夕陽の元手をつないで、家路をたどったあの日。
母だけど。まるでデートをしているような感覚だった。
それだけ貴重な時間。
専業主婦の母をもつ者にはわからない感覚だろう。
寝る前によく歌ってくれ歌。「春よ。」
母の好きな歌。
聞こえてくる声は美しく、優しく。
透き通るような声。
この声を何に例えよう
休みの日は一緒に寝てくれた。
昼夜逆転の生活をおくる母が眠れるはずもないのに
酒も飲まず、ただずっと朝まで横でいてくれた。
優しい温もりと共に眠った。
この優しさと、温もりを何に例えよう。
亡き3人の愛は何にも例えようがない。
いくら考えてもわからない。
ただただ温かい。
今はどこにいるのかわからない。
今僕を見えているのかどうかも、わからない。
俺は、俺は、こんなところにいるけれど。。。
きっと見ていてくれている。
きっとあの空で生きている。
僕は、込み上げた悔いが、留まることをしらない。流れる涙も留まることを知らない。
今はこんな俺だけど、ずっと変わらず見ていてください。
きっときっと変わって見せます!!
僕の戸惑いがまた強い決意に変わる。
気がつけば外を眺めると雪はやみ、どこまでも澄んだ青空。
そしてふんわりと優しくうきあがった虹。
遠い遠い場所にかかる虹。
きれいだ。
幻想的にあらわれた虹は儚く消えていった。
まるで幻だったかのように消えていった。
残ったのはどこまでも澄んだ青空。
いつものように不気味に静まり返った中庭に朝日が照らし
鳥たちが泣く。
バカでかい大音量のチャイムがなり一日が始まった。
すると、教官と先生が独房の前に立ち。
鍵をあけて入ってきた。
軽く診察を終えて
「もう大丈夫です。」
そう教官につたえ、出て行った。
「じゃあ、夕食後に集団寮にもどるぞ。準備しておけ」
そう言い残し、教官も独房をでた。
あそこに戻るのか。
どうも愛と優しい感情をもった今の自分は、とても弱くなったような気がする。
こんな俺のままじゃあそこではつぶされる。
僕は、そうとてつもない危機感を感じた。
思い出した感情が、思い出が顔を出すたびに
ここでの暮らしが怖くなる。
いつ出られるかわからない。
社会にでる自分を想像すらできないほどに
長く長く続くここでの日々。
愛を求めたせいか、愛を思い出したせいか、
たまらなくここから早く出たいと思ってしまう。
くそだと思っていた社会がたまらなく恋しくなってしまう。
また感情を押し殺し、ロボットのように厳しく忙しい毎日を過ごす。
また悪の視線をあびながら、自分の感情をなでてやる時間さえない
あの生活がどこまでも、どこまでも続く。
愛を求めれば怖くなる。
愛を拒めば憎しみが生まれる。
憎しみを抱けば自分を捨てる。
自分を捨てれば悲しくなる。
悲しくなれば愛を求める。
いい加減にしてほしいサイクル。
普通の人間なら、こんなサイクルの中で溺れる者はいないだろう。
愛を求めても、怖くなんかならない。
愛を拒んだりしない。
自分を捨てるほど、人を憎んだりしない。
純粋に愛を求め、人を愛して、自分を愛している。
それが人のあるべき姿。
それがよりよい人生。
なぜ俺はこのサイクルにはまり溺れるのか。
なぜ俺は普通の人間のように生きられないのか。
なぜ俺はあるべき人の姿になれないのか。
僕は自問自答する。
そう、院長が言うように心の深き場所に傷がある。悪がある。
だから愛を求めれば怖くなり、サイクル中にはいってしまう。
院長が言った言葉が頭から離れない。
悪を断ち切れ。
この心の傷、この悪を断ち切れば
愛を求めたって怖くならない。
怖くなるのはこの傷と、悪が、また人を憎み、人を傷つけ
愛したものを失ってしまうから。
でももう復讐は終えた。
きっとこの傷をいやし長年共に過ごしたこの悪を断ち切ってみせる。
そして自由に人を愛したい。
でも俺は、まだまだここにいる。
ここにいるとそう簡単にはサイクルから抜け出せない。
この愛を感じる感情を撫でてやる時間もない、
撫でさせてもくれない。
この感情を撫でれば、撫でるほど社会が恋しくなる。
恋しくなるとここの生活が苦しくなる。
ついていけなくなる。
そうここは罪を犯した者が、収容されている場所。
愛なんてこれっぽっちもない場所。
ただ厳しいプログラムにのって願う心を我慢し
過ごしていかなければならない。
だからといって愛なんて邪魔なだけ。
そう思うことは絶対にしない。
しっかりとこの胸に宿し、
ここでの生活に耐えて罪を償う。
憎しみに、抱く愛を食べられないよう心の誓って強くここで生きていく。
いつか、ここを出る日が来るまで。
そう、僕は、感情をまとめた。
