「……瀬戸内くん」
「ん?」
「手、出して」
わたしの急な呼びかけに、キョトンとした瀬戸内くん。
ねえ、瀬戸内くん。
キミは隠してるつもりかもしれないけど、わかるよ。
よくゆっちゃんに鈍感って言われてるわたしでもわかるよ。
普段は自転車で学校行くくせに、今日は歩きだし、味噌汁を飲むときだってぎこちない手つきじゃない。
彼は右手を庇ってる。
「いいから、手出してって言ってるでしょ」
「ん」
「違う……反対」
「……なんで」
早く、と催促すると彼は本気で嫌そうな顔をした。
……その傷は、悠と言い争ったときに出来たもの。
復讐してやる、悔しい。
悠にいいように使われて、都合のいい女だったことも全てが腹立たしかった。
でも、やっぱり男の人の力に敵うことがなくて、泣き寝入りをするしかない
と思っていた矢先のあの事件。
……冷たいくせして、どこか優しさで溢れていて。
……素っ気ないくせして、どこか包容力がある。
「もう、無理はしないで」
そんなキミを傷つけるのは、嫌だった。
悠なんか、もうどうでもいいの。
ただ、わたしの気持ちが晴れるのと引き換えに、キミを傷つけることだけは嫌だった。

