「……あのね、瀬戸内くん」
ーーわたしは、一歩、踏み出してみせる。
今までたくさん相談に乗ってもらっていたけど、彼の本音を聞くことは、初めてに近かった。
なぜなら彼は、誰よりも自分の内を見せることが最も苦手で、今まてずっと避けてきたから。
時折顔をしかめて、苦しそうに話をする彼の姿には、グッとくるものがあったけど、そんな彼もまた、一歩を踏み出している。
彼の踏み出す瞬間を、彼の大きな一歩を、大切にしたいと思った。
「……」
わたしは彼の手を握って、ポツリと話し始めた。
わたしの手から彼の手へ、じわり、と伝わる体温と、鼓動。
ドキドキ、ドキドキ、音がする。
この、何気ない瞬間でさえも、愛おしく感じた。

