ベットに横になっているうちに、眠りについていたようで、目が覚めた時にはかなりの時間が過ぎていた。
……わたしは、大切な何かを忘れている気がしてならなかった。
────コンコン、と控えめにドアがノックされる。
「はい」
「俺」
どこの俺だ……とつかさずツッコミたくなる。
だけど、この人は本当にわたしが落ち込んでるとき、必ず目の前にあらわれて、気持ちを軽くしてくれる人で。
思わず頬が上がるのがわかった。
「知奈、あけて」
普段はいつも意地悪で毒舌で、調子いいことばかり言ってるのに。悪口ばっかの不機嫌な人、なのに。
どうしてこの人は、不意に優しくなるのだろう。
こんなにも柔らかく、名前を呼ぶの。こんなにも大切そうに声をかけるの。

