「ねぇ、“七桜伝説”って知ってる?」




全ては、その一言から始まった。




「“七桜伝説”?」



その言葉を聞いたとき、私は心の中で、中二病っぽいな、と少し苦笑した。


「うん。なんでも、七つの桜のうち、どれか一つでもたどり着くと願いが叶うらしいよ。」


「へ~。」


なんだ、都市伝説的なやつか。

私は瞬間的に思った。


興味無さそうに呟いた私に、彼女はじとっとした目線を送ってきた。


「何、その反応。」

「だって、ただの迷信でしょ?」


願いが叶うとか…… ねぇ?
よくあるパターンだし?


だが、彼女は人差し指を自分の口にあて、少し不適な笑みを浮かべながら言った。


「いや~。それがさ、案外そうでもないみたいだよ。」


どういうこと? という意味を込めて、私は彼女を見た。

すると、私の思ったことが通じたのか、彼女は私の疑問に答えるように話し始めた。


「この学校でね、昔、行方不明者が出たらしいよ。」

「...え?」


その言葉に、私は驚いた。

この学校で行方不明者が出たなんて、一度も聞いたことがなかったからだ。


私は、思ったことを彼女に聞いてみた。


「それって......殺人、とか?」

「いや、そうじゃないみたい。」


よかった...。
私は、ほっと胸を撫で下ろした。


「それで、一体何だったの?」

「それがさ、まだ分からないみたいなんだよね...。」

「え? 何で?」


行方不明者って、見つかったんじゃないの?

見つかったから、殺人じゃないって断言できるんじゃないの?


「実はさ......その行方不明者ね、今も昏睡状態らしいんだ。」


そう言った彼女の瞳は、少し曇っているように見えた。


「へぇー。だから、原因不明なんだ。...ていうかさ。」


「ん?」


「その人と、“七桜伝説”?って何の関係があるの?」


私が聞くと、彼女は得意気に言った。


「それがね、“七桜伝説”の秘密を知ったから、っていう噂なの。」


へぇー。そうなんだ。

“七桜伝説”の呪い的な?


...それで、


「何でそんな話を君が知ってるの?」


彼女は胸を張って答えた。


「噂話なら、この私にお任せください。」


「いや、別に興味無いけど。」


私は即答した。


すると、彼女は苦笑しながら、

「冷たいなぁ。」

と言った。


私は、彼女に聞いてみた。


「でさ、なんで“七桜伝説”の話がでてきたの? まさかとは思うけど、探そうとか思ってないよね?」


彼女の肩が少しビクッとはねた。


え、なに、マジ?


「私、絶対探さないよ?」


だって、本当に呪われるかもしれないじゃん。


そう断言すると、彼女は泣きそうな顔をした。


え、やだ。泣かないでよ。
まだ校舎内なんだから。

と、私は瞬間的に思った。



そのあと、なぜか長い沈黙がおとずれた。




「............」




「............」




「............」








..........ったく、もう。




「.........わかったよ。探せばいいんでしょ、探せば。」



私がそう言うと、彼女は驚いた後、目を輝かせて、


「い、いいの!?」


と大声で言った。


「ただし、条件が一つ。」


私は、彼女の綺麗な黒い瞳を見つめながら、はっきりと言った。


「身の危険が迫ったら、絶対に自分のことを優先すること。」


「はーい。...っていうか、身の危険って。そこまで気にしなくてもいいのに。」


確かにそうかもしれない。

なぜ私は、自分でフラグを立てるようなことを言っているんだろうか?


それに、なぜ私は許可をしたのだろうか。


行方不明者が出た.....というと、嫌な予感しかしないというのに。










だが、今となれば、私は勘づいていたのかもしれない。










“七桜伝説”は、本当に呪われたこの町の伝説だということを_