-新緑町 カフェ『ハイクラス』

 「…へぇ、わざわざ犯人のアリバイを確かめに親父に会うのか」

 新緑町で出会った政樹に連れられ清二と的場はカフェ『ハイクラス』にいた。

 「そうです。…ところでなんで俺たちに声をかけたんです?」

 「まぁ、さっき瞬とパチンコ勝負しているところを少し見てねとてもエクセレント…素晴らしいゲームだったよ。見ててドキドキしたね」

 「そのことですか…」

 「一体何があったんでありますか?」

 清二は簡潔に的場に話した。

 「瞬に情報を聴くためにギャンブルに手を出したのでありますか?」

 「…もうしないって決めてるから」

 「それならよいであります」

 大人しく政樹はコーヒをすすっていたが、一口飲み終わるとため息をついた。

 「まったく情けないね。君、いい腕をしているんだ。勿体ないじゃないか。瞬に勝てる数少ない勝負師…バットここでチャンスをみすみす逃すつもりかい?」
 
 「政樹さん…まだ清二君は未成年であります!危ない道は進めてはいけないのであります」

 「……ふん。まぁ好きにするといいさ。俺は諦めないね。言っておくけど親父は厳しい。そう簡単に会えるかもわからないさ」

 「大丈夫です。瞬さんに罪がないなら協力してくれるはずですから」

 「…ここは俺が払っておくさ」

 「いえ、本官が…!」

 「的場巡査。ここのカフェの名前『ハイクラス』って意味わかるか?」

 「…申し訳ないであります。わからないであります」

 「…High Class。高級って意味さ、俺の行きつけのカフェなんだ、そう簡単に凡人は入れない。俺みたいな金持ちじゃないとな。だから君たちでは払えない」

 「ぐ…」

 的場は声が出なかった。

 「政樹さん」

 「なんだ?」

 清二は政樹に尋ねた。

 「氷室冷蔵さんはいったいどういう方なんですか?」

 「どういうって…いまどき珍しい頑固親父さ。俺にはかなり厳しいけど歳の離れた兄貴には優しいってひいきじゃねぇか?…まぁいい。あまり怒らすようなことするんじゃねぇぞ」

 そういうと政樹は去って行った。

 「清二君。大丈夫でありますか?本当に行くのでありますか?」

 「大丈夫。俺は行くよ。的場さん忙しいなら先に帰っても…」

 「いや、本官はついていくでありますよ」

 「…お願いします」

 清二は的場に対して心を許すようになった。




 
















 -氷室邸

 ピンポーン

 「ごめんください」

 チャイムと同時に清二が声をかけた。

 「はーい」

 屋敷の奥から女性の声がして扉が開いた。

 「あら、いらっしゃい。えっと…旦那様に御用の方かしら?」

 出てきたのは氷室家専属のお手伝いさんの本居彩子だった。

 「はい」

 「…ごめんなさいね、旦那様は前もって連絡されてないとお会いになりませんの」

 「彩子。その客を氷室の間まで通せ」

 屋敷の奥から男の声が響いた。

 「あら、旦那様珍しいですわ。…まぁ旦那様が仰っています、氷室の間まで案内させていただきますわ」

 そういうと彩子は清二達の来訪を歓迎した。


 -氷室邸 氷室の間

 「失礼します」

 清二が軽い会釈と共に部屋へ入った。

 「…うむ。お主が立谷清二…か」

 「はい、東郷瞬さんにお話を…?」

 「うむ。まぁ、座れ」

 「あなたが氷室冷蔵様でありますか?」

 「…そうじゃ。ワシが氷室一族の長…氷室冷蔵じゃ。まぁ元長と言うべきか…?」

 「政樹さんから聞きました。歳の離れてるお兄さんが長と言うわけですか?」

 「そうなるな。ワシは今ではただの老いぼれじゃ。金剛町の隣町広陵市という町でワシの息子…長男の勝利が市長じゃ」

 「そうですか…。いきなりですが、昨日、東郷瞬さんがここにいらっしゃいましたか?」

 「瞬のアリバイとやらか…。ふむ、確かに来ておったの。金剛の善三郎が裏でやっていたというパチンコ大会の情報を持ってきてくれたんじゃ。まぁ今となっては意味はないが…」

 「ところで氷室一族と金剛一族はどういう関係があるのでありますか?何かしら互いを嫌っているような印象でありますが…」

 的場は冷蔵に尋ねた。

 「ふむ、まぁ話してもよいだろう。金剛善三郎の子供、春子、夏男、冬助…実は前妻の子じゃった。その前妻…金剛芳美がワシの妹。よって善三郎はワシの義理の弟だ」

 「えっ…!!」

 新たな情報に清二達は驚いたのであった。







 -氷室邸 台所

 「ふぅ…」

 彩子は一人ため息をついていた。

 「どうしたんだい彩子ちゃん」

 そこに声をかけてくる男がいた。

 「…あ、勝利さん…おかえりなさいませ」

 「ただいま」

 「……」

 「疲れてるみたいだね」

 「はい、やっぱりご先祖様…氷室に仕えるお手伝いさんとしてやっぱり和絵様にようにはいきません」

 「そんなことないよ、彩子ちゃんだって一生懸命やってくれてる。俺も親父も助かってるよ」

 「ありがとうございます」

 「これからもよろしく頼むよ!…さて親父のところに報告に行かなきゃ。叔父さんが亡くなったって」

 「それについての事かわかりませんが…お客様が来ています」

 「そうか、瞬…じゃないだろうし誰だろうな」

 「若い青年二人です」

 「わかった、ありがとう」

 勝利は冷蔵の居る氷室の前と行った。