診察を終えてウサちゃんルームにもどる。おもちゃを片付けて掃除機をかける。

一通りの仕事を終えて日誌を書いていると春兄がやって来た。

「実緒、終わったかい?帰るよ」

二人で病院を出て、春兄の車に乗り込む・・・。

私の両親は4歳の時交通事故で亡くなった。親戚もなく施設に入れられそうになっていたとこを、三条の家に引き取られた。三条家と桜家は、父親同士が親友だったのと私が、体が弱くて熱が出ると肺炎をおこし病院に入院してばかりいたから、いつも側に春兄や和也がいてくれたんだ。

子供が好きで、沢山勉強して保育士になったんだけど体が弱く仕事に就くことが出来ず、今は病院に入院している子たちが遊びに来るウサちゃんルームで務めさせて貰ってる。

「実緒疲れたかい。大丈夫?」信号待ちの春兄が心配そうに顔を覗き込む。

「え?あー・・。うん。大丈夫だよ」

「ねー春兄・・。私が和也と結婚してもいいのかなー。麗さんだったけ・・。凄く美人だし女医さんなんだよね。
今朝ね和也に抱きついて、婚約者だって言ってるの聞いちゃったんだ・・・。そしたら急にね胸のあたりが苦しく
なってね息ができなくなって・・・。気が付いたら走って和也から逃げ出しちゃたんだ」

「ばかだな実緒はー。和也が離れるなんてありえないだろー。気にすることないよ。さあ着いたよ」

車を止めて家に入る。私はずっとこの三条家でお世話になっている。いつかは、ここを出て一人で生きていかなきゃと思い打ち明けてみたが、却下された。

和也との結婚もおじさまに祝福され、同じ敷地内に家を立ててもらうことにもなっていたはずだったのに・・。

その日の夜、おじ様に呼ばれた・・・。

コンコンドアをノックし入ると「こんな時間にすまないね。ちょっといいかい?」

「おじ様、どうしたんですか?」ニッコリと微笑む。

「実は、相談があるんだ・・。実緒ちゃんには申し訳ないが・・。和也のこと諦めてはもらえないだろうか?」

「でも、和也に話しても聞き入れてはくれんだろうから、君からふって欲しいんだ。それでこの近くにマンションを
購入したからそこにうつって欲しいんだ・・。勝手な事を言っているのは承知の上だ・・。だが聞き入れて欲しい」

そう言って深々と頭を使い下げる。

「そんな・・・。でも、おじ様には沢山の御恩があります。分かりました。そうさせて頂きます。」

「ありがとう!!実緒ちゃん!!本当にすまない。許してくれ」

実緒は涙を隠し足早に自分の部屋へと向かった。