あれ、何だかいつもと違う。
立ったまま頭からガツンと怒鳴られるのが普通なのに。実はそれを楽しみにして来たのに。
「あのな、お前がよくやってるのは知ってる」
課長のトーンはいつもよりずっと穏やかだった。ザラッと鼓膜を撫でるのに何故か艶っぽく脳内に響く。
でもどんな声でもいい、それを私だけに向けてくれるなら。
その声が大好きで、その声を独占したくて、今日も私は損な役回りを内心喜んで引き受ける。
「仕事も早くて正確だし責任感も強い。でもそろそろ下のやつにも自分のやった事に責任持つことを教えてやれ」
ああ、バレてる。
有能な課長はちゃんと見ている。私が進んで叱られ役を引き受けている事を彼は知っているのだ。その不純な動機までは気がついていないだろうけど。
「はい……申し訳ありません」
もうこうして直接叱られる事は出来ないかもしれない。
自分だけのささやかな楽しみだったのに。
落胆の色を出さないように気をつけて返事をしたけれど、微妙に声に力が入ってなかったのはどうしようもなかった。