自分でも驚いているのに、振り返った秋光さんは更に驚いた表情を見せてくる。
呼びとめちゃった・・・・。
叫んだまま口をポカンと開けていると、先に言葉を欲したのは秋光さんだった。
「・・・何?」
「えっ・・・、あ、いや・・・」
本当になんで・・・。
つい呼びとめてしまった。
後姿をみたら何だか寂しくなって、もっといたいと思ってしまって。
しかもその本音を途中まで口にしてしまう。
「なんか・・・寂しく・・・・」
「寂しくなった?」
「・・・っ・・・」
ごまかせない言葉に声が出なくなり、喉の奥が言葉がつまってなのか熱くて仕方ない。
そんな私を察してなのか、ニヤリと笑った秋光さんが雨の中をゆっくりと歩いて戻ってくる。
一歩後退するも、逃げたいわけでもなく。
ただ羞恥からの抵抗で、視線を落とせば自分の足元の前に秋光さんの足元が入りこむ。
つまりは今私の前まで戻ってきたって事なんだ。
ドキドキとうるさい心臓に苛まれながら、ゆっくり確認するように顔をあげると。
すでに水に飛び込んだ様にずぶ濡れの秋光さんがクスリと柔らかい頬笑みで私を見下ろしていた。
「夏希・・・、寂しいとか、簡単に言ったら悪い奴に食われるぞ・・・」
「す、すみません・・・・」
「また謝ってるし・・・。まぁ、いいや・・・
・・・・聞いてたのが俺でよかったかな・・・」
ゾクリと何かが走ってしまった。
きっと深い意味は無くて、こんな風に意識するのもおかしな話なんだ。
どうしていいのか分らず、雨の中を立ちつくして見つめてしまう。
不意に秋光さんの手が私の手に触れ、赤い傘を抜き取って隣に並んだ。
「じゃあ、お姫様の送迎でもしましょうか・・・」
「あ、秋光さん、もう少し傘に入った方が・・・」
傘はほとんど私の上に存在していて、秋光さんは身体が半分ほど雨ざらしになっている。
「ははっ、もうここまで濡れてんじゃん俺。今更濡れても変わらねぇよ」
「だけど・・・」
「じゃあさ、代償くれよ」
「代償?」
キョトンとしながら見上げると、秋光さんは少しかがんで私の耳元に言葉を落とす。
直接かかる息と声にゾクリとしてしまう。



