「経験者は語る。考える前に動け。好きだけでいくらでも突っ走れるから」
ニヤリと笑うとその人は私に背中を向けて歩きだす。
咄嗟に呼び止める様に声をかけてしまった。
「け、経験者って、なんの?」
振り向き様に見せた顔が凄艶すぎる笑顔で、それを誇らしいと言うような響きで私に告げた。
「駆け落ちの…ね。
俺と奥さんは出会ったその日に駆け落ちした仲だから」
今も幸せなんだろうな。
そんな雰囲気を全て笑顔に現して、その人は柑橘系の香りを残して立ち去った。
名前……、また聞きそびれた。
でも、まだまだ関わっていく事になりそうなその人を見送り銭湯の入口をくぐっていった。



