困ったように視線をホットケーキに落としてしまうと、一琉は小さく溜め息をついてから身をのりだして。
左手に絡めていた手を私の首の裏に回して引き寄せると唇を重ねた。
あっーーーー。
甘い甘い甘い……。
依存性の強い一琉のキス。
媚薬のようなキスはかなり危険な物なんだ。
余韻たっぷりのリップ音を響かせながら離れた唇と、一琉の人を魅了する妖艶な表情。
「気持ち一つでいい……。
俺を好きって気持ち一つで、
凪のその気持ちさえあれば他の全ては捨てるから」
「一琉の……引き換える全てを知らないもん。
そんな……、恐い約束出来ないよ……」
一琉の表情が不安に揺れる。
望む言葉が私から零れない不安。
それは痛い位分かってるんだよ一琉。
だけどさ、一琉は何も話してくれていないんだもん。
「わかった………、でも、考えておいて……」
一琉の手がスルリと外れて、離れる距離に少し怯えた。
少し寂しそうな笑顔で促され、冷め始めていたホットケーキを口にする。
変わらず甘いのに後味に苦味を感じるのは何故だろう。
中々それを飲み込めずにいると、玄関の鍵がガチャリと開く音がする。
「何だ?何か今日は静かだな…」
重い空気の中いつものペースで上がり込んできたのは秋光さんで、微妙な空気に感づいて目を細める。
だけどそこは年長者らしく深くはそれに触れず、一琉に何やら書類とパソコンを手渡した。
「大主がお前の不在に気がついたらしいぞ」
その言葉に一琉の眉根が寄って、深い溜め息と共に頭を抱えた。
「………うん、わかったよ。…一回、父さんにも連絡してみる」
一気に疲れた様な顔を見せた一琉がチラリと私を見つめて、気持ちのない笑みを返してきた。
「凪、今日も一緒に行けないや……ごめんね…」
「うん……、部屋にはいる?」
「……そうだね。今日はここで色々しなきゃだから…」
一琉の視線が秋光さんから渡された書類に落ちて、私からずれたそれに寂しい気持ちが高まるのを誤魔化して微笑む。



