中には小麦粉や粉類、椎茸、調味料的な物はあるけどすぐに食べれそうな物は無い。


コレはひとっ走りパン屋かコンビニに走ろうかと思った時だった。


「凪~、バターと卵と牛乳ある?」


「はっ?あ、うん、それ位ならあるけど…」


「……甘い物は好き?」


「う、うん……」



甘い物は結構好きだけどさ…。


一琉は私の返事を聞くとその顔に得意気な笑みを浮かべると、カチャカチャとボウルや小麦粉なんかを揃え始めて。


驚く私にクスリと笑うと、卵や牛乳をボウルに溶きほぐしていく。


一琉がキッチンに立っているというのは何だか不思議な光景で。


更に手慣れている動作を横から眺めていると不覚にもときめく心臓が煩い。


フライパンを熱し始めて、混ぜ合わせて出来た生地をトロリと流して甘い香りを漂わせる。


あっ、懐かしい。


この匂いは馴染みがある。


「凪…、お皿出しておいてくれる?」


「あっ、うん」


言われるままにお皿を取り出し振り返った時には、フライパンの上のそれが返されて、綺麗なキツネ色に膨らんでいた。


何でだろう、大人になってもワクワクとしてしまうこの瞬間。


見事綺麗に焼き上げられたソレは私の手にしたお皿に乗せられた。


「ホットケーキ……、久しぶりに見た…」


「まだ何枚か焼くから…」


正直、ホットケーキミックス無しのホットケーキは初めてだ。


こんな風に出来てしまう物なんだ。


感心している間にも何枚も焼きあがるそれを生唾を飲みながら見つめてしまう。


お皿の上には何枚かのソレが積み重なり、私の鼻を甘い香りが掠めていく。


「凪、ハチミツとかってある?」


「あ、あるある。バターもいるね」


パタパタとそれらを揃え始めると、一琉は積み重なったホットケーキをテーブルに運んだ。


私はフォークとナイフやハチミツなどを手にしてようやく一琉の前に座った。


「じゃあ、食べよっか?」


「うん、いただきます」


微笑む一琉に手を合わせると、一琉は、どうぞ。とクスリと笑って自分のホットケーキにバターを乗せた。