鏡の前で一琉に髪を洗われる。
上を向いていたから時々視線が絡んでは笑みとキスを落とされる。
あまりにハッキリしない頭での時間は、どこか夢心地でフワフワとした感覚で一琉の全ての行為を受け入れた。
ぴちょん…、ぴちょん…と、響く水音が大きく聞こえるくらい静かな空間。
ようやくまともに頭が働く時には2人で僅かにぬるくなったお湯に浸かっている時だった。
「………恥ずかしい……」
ポツリ、舞い戻った羞恥心からの言葉を弾くと、一琉はクスクスと笑いだす。
「今更すぎるよ凪」
私の背中に引き締まった胸を密着させるように抱き寄せていた一琉がクスクスと笑いだす。
「何だか懐いた猫をお風呂に入れてた感じ」
「私は金魚だもん……」
「そうだね、……なかなかすくえない金魚…」
そう囁いた一琉の唇が、私のうなじに触れてから首すじに移動する。
同時に腹部に巻きついていた手が胸に伸び、ごく自然に感触を確かめる様に触れてくる。
「一琉……,ヤダ………」
「……言い方に力が篭ってないよ凪……」
胸に無い方の手がするりと太ももを撫でてきて、水中という不思議な感覚が更に体が熱くなる。
「一琉、恐い………」
「恐くない……、今、凪に触れてるのは俺だよ?」
一琉の指先が太ももの際どい位置から一番敏感であろう場所に触れた。
瞬時に熱く速くなる動悸に怯え、未知の感覚に体が緊張して強張る。
「凪…、恐い事なんてしないから……、力抜いて……」
「……っ、……はっ……や、触らないで……」
一琉の言葉なんて飛んでしまいそうな指先からの刺激に全てが熱くて仕方ない。
動く度にパシャリと跳ねるお湯やその音も扇情的すぎて。
そんな刹那、
「凪……、限界。凪を頂戴……」
切なげな声と吐息が漏れて、一琉の懇願する妖艶な顔に見つめられると。
返事を待たずに一琉が私の足を持ち上げてその態勢に持ち込もうとした。
「一琉っ……待っ……」
「一琉、大御所様から電話だけど?」
あっ……。
多分、まさになギリギリのタイミングで響く声。
瞬時に一琉と私の視線を集め、この状況に終止符を打ったのは秋光さんだった。
浴場のガラス戸に体を預けながら一琉の携帯をちらつかせる。
ってか、何でいるの?!
鍵は!?
「い、いやぁぁぁ!!あり得ない!秋光さん最低!!」
「邪魔する気は無かったけど…、仕事だからな…」
咄嗟に胸を両手で隠してみたけど、体を見られた事より一琉との濡れ場的な物を見られた事の方が恥ずかしすぎる。



