私の両親は普通の優しい人達だった。
可愛がってくれたし、大好きでずっと傍にいてくれると思っていて。
ある日3人でお祭りに行った。
金魚すくいで金魚が取れなくて泣いた私に、父と母は赤い金魚と黒い金魚を買い与えてくれて。
小さな金魚鉢でその2匹を飼い始める。
そんな日の数日後ーーー。
仕事で少し遠くに出かける父と母に、我儘を言ってついていくのだと泣き続け。
それでも置いていかれるあの時、
「大嫌い!!」
そう叫んで、走り去る車を見送って。
両親は土砂崩れに巻き込まれて帰らぬ人になる。
私が最後に両親に言ったのは、大嫌い。と言う言葉。
最後に見た2人は悲しそうに笑っていた顔。
私に残ったのは赤と黒の金魚とその思い出。
ずっと閉じ込めていた記憶なのに、一琉が来てから鮮明に思い出してしまって。
気がつけば頬に涙が流れている。
今も流れていた涙を慌てて拭うと、見飽きた筈の雑誌に視線を落とした。
流れる時間は残酷すぎる。
必要な時程短く。
不必要な時程長いんだ。
それでも1秒1秒時は進んで、外の景色も夕方から夜に姿を変える。
なのに現れない蝶々に不安が走る。
帰って来ない…。
扉が開く度に期待して、それを打ち砕かれて。
どうかしてる私……。
コレが私の当たり前の生活だった筈なのに。
入店しては退店していく客足も時間が経てば薄くなり、最後の客がいなくなった時には22時近くだった。
乱れたカゴを片付けて、ゴミをまとめて裏に出す。
浴場の明かりを落とし番台で帳簿をつけながら売り上げを数えだし、ノートに書き写している時だった。
ポタリ、ポタリと落ちた水滴がノートの文字を滲ませる。
最初何か気づけずにいて、途中で気がついて頬に触れる。
私……、泣いてる……。
それに気づいたら涙腺が決壊して次から次へと涙が零れた。
「ふっ……うっ………嘘つき………」
嘘つき!一琉の嘘つき……。
すぐに戻るって言ったじゃない。
一琉……、会いたいよぉ…。



