「……俺、初めてコレ食べる」


「はっ?」


「おにぎり。ってヤツでしょ?初めて~」


まるで子供のように無邪気に喜ぶ姿に嘘が見えなくて意識が遠のく。


嘘だ。


絶対に私と同じ位は生きているであろうこの男。


どうやったらおにぎりを避けて通った人生を送ってきたんだ?


唖然としながら爆弾発言をした男を見つめてしまう。


にこやかだった男はそのままの表情でおにぎりを掴むと迷いなく口に運んで一口食べた。


「ん、美味しい。おにぎりってこんななんだね~」


「ほ、本気で初めて?」


「うん、なんで?」


ケロっと質問返しをされて逆に面食らうと、おにぎりにかぶりつきながら男がジッと私を見つめる。


今度は何よ?


眉根を寄せて見つめ返すと、男は私を品定めするかのように視線を走らせ、その口元に危険にも感じる弧を描く。


「ね、俺、一琉(いちる)。おネーサンは?」


「一琉?変わってる」


「名前~」


「……凪(ナギ)」


「ふぅん、……凪…ね」



響きを確認する様に呟かれた言葉にドキリとしてしまう。


あまり同年代の人に名前で呼ばれる事がないから素直に驚いてしまった。


それが表情にも出ていたのか、一琉はクスリと笑って言葉をつけたしてくる。



「凪、俺を好きになったらダメだよ……」


なんだこいつ、自意識過剰?


「ならないよ」


「そ?よかった。好きになられたら好きになっちゃいそうだったし」



それは…、流していいのかな?


無邪気で裏のない感じの笑みを真っ正面からぶつけられて、どう切り替えしていいのか理解に苦しんでいると。


先に一琉から言葉を切り出した。



「俺ね、婚約者がいるから恋愛タブーなの」


「ああ、じゃあ、尚更好きにならないよ」


「本当に?」


「人の幸せ壊したりはしないもん」



ハッキリ言い切ると、一琉は初めて期待外れみたいな表情を見せて、手に持っていたおにぎりを食べ始めた。


何か変な人を拾っちゃったな。


ため息混じりにスポーツドリンクを口にすると、爆弾をいくつも持っているらしい一琉が不意打ちで再び投げてくる。



「凪って、結構タイプなんだけどなぁ…」


飲んでいたスポーツドリンクが口の端から零れてしまった。