言い終わらない内に男湯の暖簾がばさりはためいて、中から倒れる様に現れたのは昼までの完璧ホスト姿が皆無になった秋光さんだった。
スーツの上着は脱衣所に捨て置いてきたんだろう。
シャツの第3,4ボタン位まで開放されズボンの外に出された淫らとしか言えない様な格好で。
乱れた髪と赤い顔を見れば、完全に潰されたのだと理解する。
「あ、秋光さん?大丈夫ですか?」
「無理………、あの、鬼畜バカボンが……」
「秋光さん。もしかしてお酒苦手…とか?」
「悪い……、話すの無理っ……」
言うなりグラリとよろめいて、倒れこんだのはよりにもよって夏希ちゃんの上だった。
秋光さんおおよそ180センチ。
夏希ちゃん153センチ。
無理だ、支えきれない!
と、思った時には手遅れだった。
ドサリと見事音がして、座りこんだ夏希ちゃんのにすがる様な形で秋光さんが倒れこんでいる。
「な、凪ちゃん~、ど、どうしたらいいの~?」
「ご、ごめんね、夏希ちゃん!大丈夫?」
半泣きの夏希ちゃんを見て焦ってしまう。
夏希ちゃんはどっちかというと、男の人は苦手だ。
この状態はかなりキツイはず。
「あ、秋光さ~ん。頑張って起きて~」
何とか秋光さんの体を起こしてみるのに、ぐったりとしたまま反応がない。
しかも夏希ちゃんの手をしっかり掴んで離さないものだから困ったものだ。
夜風に当てるか。
入り口の横にはちょっとした竹細工の長椅子があって、その場所に寝かせ様とズルズルと秋光さんを引っ張ってみる。
その弾みにようやく僅かな意識を取り戻した秋光さんが、支えれば歩いてくれる感じになって助かった。
「悪い……、凪ちゃん……」
「いや、お祖父ちゃんが悪い……。ってか、一琉が悪い!」
だから秋光さんは拒んでいたのか。



