昼から夕方に姿を変えはじめ、ガラス戸から見える外の様子も熱気薄れる紺色の世界になってきた。
昔からの馴染みのお客さんも1人2人と増えてくる。
そして、増えるばかりで去る人がいないのは馬鹿騒ぎの宴会場になっている男側の脱衣所のせいだ。
馴染み客まで混じりこんでの大宴会。
時々バカみたいなコールが響いて頭が痛い。
ってか、みんな私を忘れすぎ!
一琉まで何時間も顔を出していないんだから。
そんな折に女湯の方にも馴染みのおばさんが入ってきて、宴会場と化した隣の騒ぎにクスクスと笑いだす。
「あらあら、今日は一平さんご機嫌なのね?」
一平さん。つまりは私のお祖父ちゃんだ。
「本当、バカみたいに盛り上がっちゃって煩くてたまらないです」
「いいじゃない。賑やかで楽しそうだし、一平さんがあそこまでご機嫌なのは久しぶりよ」
「そうですか?」
「きっと、嬉しい事があったのね」
笑いながら入浴料を置くと、おばさんは中に入って行った。
嬉しい事……。
まぁ、一琉の事か?
確かにお祖父ちゃんがここまで馬鹿騒ぎするのは久しぶりだなぁ。なんて思っているとガラリと扉が開いて、鈴を転がした様な声が響いた。
フワリ夜の風と入り込んてきたのは、栗色のショートボブでお人形みたいな顔をした愛らしい女の子で。
その姿を見て自然と微笑んでしまう。
「こんばんは凪ちゃん」
「夏希ちゃん、どうしたの?」
夏希ちゃんは私より3つ下の幼馴染。
でもかなり小柄で153センチ位しかない上に童顔なのもあって20には到底見えない。
ごめんね、夏希ちゃん。
「あのね、ゼリー作ったんだけど作りすぎちゃって。…一平おじいちゃんと食べてくれる?」
「わぁ、ありがとう夏希ちゃん。美味しそ~」
ゼリーに感動していると、再び中から馬鹿笑いが聞こえてきて、夏希ちゃんがビクリと反応した。
「なんか、賑やかだね今日」
「あ、うん。何かね宴会場になっちゃっててさ。無視してい…」



