困って下を向いていた私の前にいつの間にか一琉が立っていて、グイッと両手で私の顔を上げると不安そうな目で私を見つめてくる。


「………凪…、俺を捨てないで?」


まるで捨てられるのがわかっている仔犬みたいな表情で私を見るから、不覚にも罪悪感的な感情が渦巻いて。


それと同時に一琉の色気に魅了された。


「す、捨てるって……、そんな事は…しないけど……」


「よかったぁ。じゃあ、俺を好き?」


いきなり爆弾投げてくるなぁ。


哀愁漂う表情から一変、なつく様な可愛らしい笑顔で期待に満ちた視線を絡ませてくる一琉。


ヤバイ、この空気は好きって言わなきゃ何されるか分からないパターンかもしれない。




「すっ………………………」




意を決したつもりでも頭文字しか出てこず、紅潮した顔でみごと地蔵の様に固まると、一琉が痺れを切らせた感じに笑顔で舌打ちした。



「ちっ、…好きって言えよ……」



言い終わるなり一気に唇を塞がれて、逃げられないようにキツく強く抱きしめられる。


あ、秋光さんがいるのに~。


チラリと秋光さんに視線を走らせると、何食わぬ顔で一琉が手放した最後の林檎うさぎにかぶりついているところで。


こんな状況には慣れているみたいだった。


でも、私は違うからっ!


一向に緩まない腕を掴んで爪を立てると、さすがに怯んだ一琉が力を緩めて、その瞬間に距離を離す。



「痛って……、凪酷い……」


「な、泣きそうな顔作ってもダメ」


「結婚もダメ、キスもダメ……。じゃあ、何なら凪は許してくれるの?」


「何ならって…………、一緒に暮らすこと?」


「一緒に暮らしてて何もしちゃいけないって生殺し?そういうプレイ?焦らすのも大概にしないと俺だって大人しくしてないよ?」


爽やかな笑顔で日の高い今に相応しく無いことを言われた!!


僅かに保っている距離だけど、逃げ損なった腕は一琉に未だに捕まっていて。


微妙な笑顔で応戦してみる。



「凪、もう一回聞くね。俺の事、好きだよね?」


「……………す…………」



デジャヴ…。


しかし今回は一琉の質問が念を押すタイプだった事と、私が視線まで逸らしたのが一琉の逆鱗に触れたらしい。