お皿の上にあったおにぎりは見事完食され、味噌汁や卵焼きも綺麗になくなった。


なんだかんだでその場に馴染んだ秋光さんと一琉が今は林檎うさぎに盛り上がっているのを横目に、鞄に荷物を詰め込み始める私。


それにいち早く反応した一琉が、秋光さんから最後の林檎を奪いとりながら私に声をかけてくる。


「凪、どこか行くの?」


「銭湯だよ。朝湯の時間が終わるからお祖父ちゃんと交代なの」


「あ、はいっ!俺も行く!」


と、意気揚々と当然の如く手を挙げる一琉に溜め息をつく。


何となくこう言い出す事は想定内で、言い出した時は多分何を言ってもついて来ると分かっていたから条件を出した。



「一宿一飯の分、働いてもらうわよ一琉」


「一宿一飯って、まだ当てはまるの?俺凪の旦那になるのに?」


「だから、結婚するなんて言ってないでしょ?」


「でもね凪、さっさと籍でも入れておかないと、俺凪の傍にいれなくなるかも」


「何それ?」


また言葉遊びの一琉の罠かと思ったけど、複雑な笑みで私を見る一琉の表情を見るとどうやら本気で言っているらしい。


チラリと秋光さんにも視線を走らせると、秋光さんも苦笑いを浮かべるだけだった。



「理由も無しで結婚とか言われても困る……」


「凪ちゃん、一琉と結婚する位の思いが無いなら一緒にいるのはやめた方がいいよ」


「秋光、うるせぇよ」


「本当の事だろうが、お前が安易に考えすぎてるだけで凪ちゃんはこれから振り回されるぞ」


「俺が守りきればいいんだろうが」


「ねぇ、いい加減私の分からない話で盛り上がるのやめてくれない?」


溜め息混じりに言葉にすると、一琉と秋光さんはようやく黙った。


昨夜から気になっている一琉という人間の実態が掴めずにいて頭が痛い。


あんなアパートの前の自販機で行き倒れの様にしていたかと思えば、財布にはドル札に、日本文化をまったく知らなかったり。


とうとう秋光さんという下僕的な友人まで現れて、私の想像の及ばぬ範囲の話で言い争う。


一琉の事は嫌いじゃない。


多分、くやしいけど好きの範囲内で、一琉が今更いなくなる。と、言われたら寂しくて仕方ないのも本当。


だけど、結婚って急に言われても。