どうしたもんかな?


その塊を踞って見つめてしまう。


時刻は夏の夜9時を過ぎていて、生暖かい空気を感じながらそれに思案を巡らせる。


自分の住むオンボロアパートの前には自販機があり、仕事帰りに何かを買って帰るのが私の日課で。


それを今日も実行しようとしたまでの事。


だけど予想に反する塊にそれを阻止されて、それにどう対処していいのかわからないんだ。


自販機に寄りかかるようにして瞼を閉じている塊は多分男。


しかも、容姿端麗。その言葉にピッタリと隙間なく当てはまりそうな男で。


しばらくそれを眺めつつ、僅かに顔を近づけてみる。


お酒臭くは…ない。


息もしてるし……。


何でこんな所で寝てるんだろう?


首を傾げつつ、ゆっくり立ち上がって自販機にお金を入れるとスポーツドリンクを迷わず購入した。


ゴトリと品物が落ちた音と同時に耳に響いたなんだか心地のいい声のトーン。


「ね……、それ、俺にも頂戴…」


チラリとさっきの塊に視線を戻すと、閉じられていた目がハッキリと開かれて上目遣いに私を射抜く。


これはまた、女の子が騒ぎそうな顔の作りをしているな。なんて冷静に思いつつ、今手にしていたドリンクを謎の美麗な男に渡してみた。


「くれるの?」


「ジュース1本で身の危険を回避出来るなら」


淡々と、特に慌てるでもなくそう告げた私に、彼は目を見開いたけれど瞬時にその表情をくしゃりと笑顔に変化させる。


お金を取れそうな笑顔だな。と、さえ思ってしまう。



「ははっ、俺って何か犯罪者?」


「そうじゃないといいな。って儚い願いよ」


「つまり、犯罪者なら今からおネーサンを俺が襲っちゃうとか?」


「襲って得すると思うような馬鹿ならそうなんじゃない」



話せば話すほど私の言葉が楽しいらしい男はケラケラと笑って私から受け取ったドリンクを開け始めた。


私は再度お金を自販機に投入すると、同じドリンクを購入して後ろのボロいアパートに歩き始める。


錆びてボロボロの階段を登って、家の鍵を取り出そうとカバンに手を入れると、後ろについて来ていた人影に気づいて振り向いた。