昨日シャワーの後に寝てしまったから裸なのは見逃しても、寝起きで乱れた髪に、そこから覗く色素の薄い眼。


白く綺麗な裸に紫の妖艶な蝶。


そんな誘惑的な色気を孕んだ一琉の唇が弧を描いてゆっくり動く。


「改めて…、おはよう凪……」


「………おはよう…一琉……」



なんだか緊張するのは一琉が恋人アピールをしてくるからなのか。


不思議な感覚だった。


昨日までは1人で迎えていた朝を、一緒に共有する人がいるというのは。


おはようと言われたり、おはようと言ったり。


当たり前のような事が今までの私には欠けすぎていて、些細な事になんだかくすぐったくて温かい。


なんか、嬉しい……。


そう思った感情が自然と口元に現れてしまっていたらしい。


下を向きながら口元に弧を描いていた私を一琉が優しく抱き寄せてくる。


「ね、どうしてさ、そんな可愛い顔しちゃうの?」


「えっ、な、……………ちょっと……ね、おはよう。が嬉しかった……な。…って…」


「(何でこの子こんな可愛いんだろ…)」


一琉の温もりに昨日からだいぶ癒されてしまっている。


ずっとこうしていてほしい位に。


だけど、誰かにそういった感情を抱いて期待するのが恐くて私は自らは避けていた。


一琉がそれでも無理矢理私に歩み寄ってくれたから私は今この心地よさを手にしているんだ。


時計の針が8時を回った。


いつもなら7時には起きて動き出している。



「一琉……、ご飯、食べる?」


「うん、またおにぎり作って…」


「おにぎりでいいの?」


「凪のおにぎり美味しかったから…」



ただ握っただけなのに…。


でも、誰かに食べて貰って喜ばれるのもいいものだな。


クスリと笑いながら立ち上がると、キッチンに向かって歩きだす。


不意に振り返ると一琉は下着とジーンズを穿いているところで、未だ露わの上半身の蝶を見つめて少し体が熱くなった。


毒蛾の粉をかけられた様な気分。


しかも、酷く甘く危険で致命傷すれすれの。


甘い余韻を振り切る様にキッチンに立って冷蔵庫から卵と豆腐とわかめを取り出す。


昨日と大差ないものしか作れないと、軽く溜め息をつきながら周りを見渡して視界にいれたのは真っ赤な林檎。


ふと、思いつくとクスリと笑って朝食の準備を整えた。