私は一琉の……、


恋人?


駆け落ち相手?


ん…、なんか変だ。


「……一宿一飯の提供者です」


“ ……それは、ウチのバカがご迷惑おかけしま…”



相手の言葉を聞き終わる前にスルリと私の手から抜けた携帯に驚いて、抜けた原因を確認するように振り返ると寝起きで微睡む瞳の一琉が不機嫌そうに携帯を手にしていた。



「………恋人……」


「はっ?」



不機嫌な状態で一琉の口から零れた言葉に首を傾げると、より理解しやすい言葉で返事が返ってくる。



「俺と凪は恋人でしょ?」


「え、あ、うん?」



はっきりしない返事を返したのは間違いだった。


そして悟る。


一琉の寝起きは機嫌が悪い。


グイッと引かれて押し倒されると不機嫌そうな一琉がキスをしようとしてきたからさすがに口をカバーして抵抗してみる。


「い、いやいやいや!寝起きでキスとか本当にやめて!恥ずかしいし、無理っ!無理だから!」


「ちっ、手でカバーとか無しだろ!キスさせろって」


「は、犯罪者がいるっ。!!ちょっ、服に手入れんな!」



“ いちるぅぅぅ!強姦はヤメろ!!マジ、責任問題になるぅぅ!!”



すっかり忘れていた携帯のスピーカーから、さっきの人の怒号が再び響き、舌打ちした一琉が携帯に手を伸ばした。



「強姦じゃねぇし。恋人とのキスやセックスは合法だろ?」


“ はっ?!お前何言ってくれてんの!?恋人!?”


「凪は俺の彼女だって言ってんだよハゲ」


“ ハゲてねーし!ってか、とうとう頭やられたかバカボン。昨日の数時間て何で彼女とか出来てんだよお前はっ!?”


「お前と違ってパーフェクトな俺だからだよヤクザ」


やっぱ、ヤクザなのか?


しばらく子供の喧嘩のようなそれを黙って聞いていたわけだけど、自分の頭に過った人物像とマッチした言葉が一琉から引き出されて反応した。



“ とにかく、行くからな!今向かってるから逃げるなよ!”



その言葉を最後に通話は切れた。


その携帯をつまらなそうに後ろに投げ捨てると一琉は欠伸をしてから私に視線を移した。


寝起きの一琉は危険な魅力がある。